2008年11月14日

ジム・ロジャースの商品の時代 商品投資ガイドブック

大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代
著者:ジム・ロジャーズ
販売元:日本経済新聞社
発売日:2005-06-23
おすすめ度:4.5
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「中国の時代」を紹介した冒険投資家ジム・ロジャースの商品投資ガイドブック。

ジム・ロジャースは1964年にエール大学在学中に夏休みのアルバイトでウォール街で働き、卒業後オックスフォードに留学して政治・哲学・経済学を学んだ。帰国して兵役につき、兵役終了後1968年から金融関係で働き始めた。

商品相場については1970年代から興味を持っていて、種々研究したとのことで、ソロスとのクアンタムファンドをやめて、1998年8月にロジャース・ロウ・マテリアルズ・インデックスファンドを立ち上げた。


ロジャース国際コモディティインデックス

このファンドの使用する相場指標がロジャース国際コモディティインデックス(RICI)であり、日本では大和証券が、ダイワ・コモディティインデックス・ファンドを設定している。

RICI




大和のファンドは2004年12月の設定以来、ゆるやかに上昇し、2008年7月に基準価格の倍の2万円を超えたが、すぐに月1割のペースで急降下し、遂に10月末には基準価格の1万円を割り込むほど急落した。

ファンドの残高もこの数ヶ月で急激に減少していることが、上のグラフでわかる。

ファンドの最近の構成比は次の通りだが、最大構成要素のエネルギー関係がピークの半値以下になっているし、そのほかの金属・食料・工業原料といったコモディティも例外なく下落しているので、ファンドの成績としては不調だ。

RICI composite





出典:大和証券 プレスリリース

ちなみにそれぞれの商品の相場動向は、フジフューチャーズという会社のオンライントレードの画面で、様々な情報やチャートが提供されているので、紹介しておく。


商品市況の現状

7月までは絶頂を極めたコモディティファンドも、わずか4ヶ月で奈落の底という感じに落ち込んでいる。

石炭や鉄鉱石といった原料も中国やインドの大量消費でここ数年市況が急激に上昇していたが、ここへきて鉄鋼製品の価格が下落したため中国の鉄鋼生産が急激に落ち込んでおり、キャンセルなどが続出していると聞く。

鉄鋼原料などで前年の数倍などという価格がそもそも異常だが、それも中国の旺盛な需要がなせる業だった。その中国がコケたので、商品価格が下落している。

今回の高値相場はあきらかに投機筋がつくった人為的なもので、需給で決まる価格からは逸脱している。その投機マネーが抜け、実体経済に沿った需給で決まる価格メカニズムに戻ると、価格の急落はやむをえないのだと思う。

歴史的にみて株が下がれば、商品は上がるという逆の相関関係があるという。株式と商品の相場は平均18年の周期で、代わる代わる上昇していると研究者は語っているそうだが、今回も7月までは調子がよかった。

それでも感心するのはジムが「私はトレーダーとしては最低だ」と語っており、全く自分の相場観を信じていないことだ。だから短期投資は避けていると。

近々ジョージ・ソロスの本を紹介するが、ソロスも自分は相場に向いていないと言っていた。驚くべき謙虚さだが、このようなファンドマネージャーの方が、下手に自信がある人間より良いかもしれない。


商品相場の見通し

商品相場では景気は大して関係ない。一本調子では上がらない。中国のおかげで楽あれば苦ありなことを注意している。

中国がくしゃみをすれば、商品価格が下落し、たくさんの投資家がパニックに陥る。その時がもっと商品を買うチャンスなのだと。価格は少なくとも2015年までは上がるはずだという。

ジムは鉛が有望だという。鉛と聞くと鉛害を連想させるが、鉛の需要は減少し、過去25年に開かれた鉛鉱山は1箇所しかない。一方車用の蓄電池の需要は中国とインドの経済発展とともに増加しているので、需給ギャップは莫大な費用を掛けて新しい鉱山がスタートしない限り続くと予想している。

spot-lead-5y-Large





出典:http://www.kitcometals.com/charts/lead_historical.html

まさにジムの予想通り、鉛相場は一本調子で上がってきたが、今年初めの高値から現在はほぼ1/3になってしまっている。

メタル関係の価格はKITCOという会社のサイトに詳しい。

ジムはロシアとカスピ海沿岸の共和国は天然資源に恵まれているが、地域全体がすでに危機的状況にあり、崩壊に向かっているので、びた一文たりとも投資したくないという。南アフリカも治安の問題がある。ロシアや南アフリカでいずれ問題が起こるのは避けられそうもない。そのことからもジムは商品に強気なのだと。


商品先物のティッカー

この本はガイドブックなので、ジムは各商品のティッカーの読み方、先物取引のしくみ等につき丁寧に説明している。

たとえば小麦はWで、ニッケルはN、コーンはC、商品のティッカーはわりあい想像しやすい。

受け渡し期限は記憶する必要がある。

1月=F
2月=G
3月=H
4月=I
5月=K
6月=M
7月=N
8月=Q
9月=U
10月=V
11月=X
12月=Z

商品に使われているアルファベットと、IとLの様に数字と紛らわしいアルファベットは避けられているのだと。


中国とインドの比較

アドベンチャーインベスターらしく、自ら走破した中国とインドの比較も面白い。ジムは2001年と2004年にインドを訪問した。インドは旅をするには良い国だが、インドの人たちの精神が依然として反資本主義的だという。

社会、経済の重要な分野でインドは中国と勝負にすらなっていないと語る。たとえば携帯電話は中国ならどこでも同じ電話機が使えるのに、インドだと町ごとに違う機種を買わなければならないことがほとんどだと。

また自国の産業を保護するため、使用しているコンピューターはアメリカの3年落ちだったりする。

インフラ、たとえば道路はジムがムンバイからコルカタへ横断した2,000マイルは道が老朽化していた。同じ道をトラックもラクダもロバも通るので、1週間掛かったという。もっとも最近高速道路が整備されたはずだが、インドのインフラ改善には時間が掛かりそうだ。

さらにインドの問題は、教育制度で、中国では子どもは全員小学校を卒業するが、インドでは半分が小学校を中退する。外国の大学にあれだけ留学しているのは、国内では大学が不足しているからだという。

その他カースト制や、女性差別(女性の半分以上が文盲だという)、宗教対立といった問題を抱えている。


商品ごとの解説

この本でジムは、それぞれの商品について1章を割り当てて次のように詳しく説明している。

第6章 安い石油よ、さようなら
第7章 金 ― 神秘か実体か
第8章 鉛の飛行船が空を飛ぶ
第9章 砂糖 ― いつか甘い気分に
第10章 コーヒー ― やがて心うきうき


原油市況

2004年現在の石油の需給は次の通りだ:

供給 8,350万バレル/日 減少中
需要 8、240万バレル/日 増加中

石油の需要はアメリカなど先進国のみならず、中国・インドでも急増しているにもかかわらず、新規巨大油田はこの35年カザフスタンで1箇所見つかっただけだ。

地質学者によると、平均的な油田の産出量は年に4.8%減少するという。アメリカの石油生産は減少し、2004年は消費の60%を輸入でまかなった。北海油田の産出量もピークを過ぎている。

サウジの5箇所の巨大油田は1940年から1965年の間に発見されたもので、サウジの石油の9割を生産しているが、ピークを迎えており、水を注入しないと生産が継続できない。特に世界最大の油層であるガワール油田は90%が使い果たされた。

さらにサウジの油田に関しては、1975年以来第三者による調査が行われておらず、埋蔵量はどこまで正しいのか不明であり、新しい油田を開発するのは困難になってきているという見方がある。

ところがサウジ側はこれを否定し、アメリカのUSGS(国土地理院)やEIA(エネルギー情報局)もサウジの数字は信頼でき、サウジの生産がピークを迎えるのは早くても2037年以降、遅ければ2047年以降だとしている。

どちらの言い分が正しいのかわからないが、遅かれ早かれ採掘条件はサウジといえども悪化し、生産コストが上がり、生産量が減少してくるのは間違いない。

サウジに代わる国は今のところなく、ロシアもプーチン政権下で産油設備に莫大な投資を行った結果、生産量は5割アップしたが、その後外資を締め出して自国の掘削技術にこだわっているので、これ以上大きな生産拡大は望めない。

「ロシアン・ダイアリー」でも登場した新興石油財閥のユコスは、エクソンモービルと北太平洋で石油を開発するプロジェクトを推進していた。

エクソンモービルがユコスの過半数の株式を購入する話も進んでいたが、プーチン大統領がユコスの社長を脱税で逮捕し、外資がロシアの石油会社の過半数の株主になることを禁止したので、結局プーチンの側近企業に買収されてしまった。

カナダのオイルサンドも、採掘に大変手間とコストがかかり、かつ回収された石油は温暖化ガスの排出量がサウジの原油よりも25%多いという。


金その他

金については消費は減少、投機は増大。鉛は消費は増加、供給は減少。砂糖はブラジルの生産と先進国の補助金がファクター。コーヒーについては豊作不作年で相当需給が変動することとなどを紹介している。


筆者は長く商社で金属原料の取引に携わってきたが、商品相場についてはあまり気乗りがしないのが正直なところだ。今まであまりにも相場で振り回されてきたという印象であり、相場でうまく行ったこともあったが、それは偶然でしか過ぎなかった。

商品市況は市場規模も小さく、実体経済の需給と深くかかわりあっているので、今年7月にピークを打って、数年は低迷の時代が続くのではないかと思っている。

鉄鋼原料などは、あまりに急に値段が上がったので、鉄鋼メーカーなどの需要家の意趣返しのキャンセルや値引き要求が出てくるだろう。

この本の出た2005年6月前後に商品相場に投資していれば、2008年7月のピークまで大もうけできたと思うが、向こう2−3年はブームは来ないのではないかと思う。

もっとも今まで筆者の市況の読みはたびたび外れてきたので、中国の大量購入という中国ファクターさえ復活すれば、案外早く市況が戻る可能性もあるかもしれない。

ちょっと新規投資の時期は失したかもしれないが、話も面白く、商品投資の基礎的な知識を得るためには、おすすめの本だ。


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Posted by yaori at 12:40│Comments(0) ビジネス | 投資