フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略著者:クリス・アンダーソン
販売元:日本放送出版協会
発売日:2009-11-21
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ユニクロの柳井正さんが「私の最高の教科書」と呼ぶ元ITT社長ハロルド・ジェニーンさんの有名な言葉がある。
本を読む時は、初めから終わりへと読む。
ビジネスの経営はそれとは逆だ。
終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをするのだ。
普通はこの通りだが、この本については終わりから読んでも良いかもしれない。というのは、この本の終わりには付録として、次の3つの簡単な解説と日本語版解説がついているからだ。
先日の朝日新聞日曜版でも出版社のNHK出版の編集者の話が紹介されていたが、人目を惹く本のカバーといい、英語のオーディオブックを無料公開していることといい、斬新なマーケティング手法を自ら取り入れた本である。
10の無料のルール(10のフリーの法則)
1.デジタルのものは遅かれ早かれ無料になる
2.アトム(デジタルに対して)も無料になりたがるが、力強い足取りではない
3.フリーは止まらない
4.フリーからも金儲けはできる
5.市場を再評価する
6.ゼロにする
7.遅かれ早かれフリーと競いあうことになる
8.ムダを受け入れよう
9.フリーは別のものの価値を高める
10.稀少なものではなく、潤沢なものを管理しよう
フリーミアムの戦術
「フリーミアム」とは大多数の利用者は無料として、一部のユーザーだけ有料のプレミアム会員とするやりかたで、著者のクリス・アンダーソンの造語だ。
これがこの本の最大の論点である。このフリーミアムについては、日本語のFreemium.jpという公式解説サイトもある。
そのフリーミアムの様々な手法は次のようなものだ。
1.時間制限
30日間無料というようなモデル。
2.機能制限
このLivedoorブログが良い例だ。もっと機能が欲しいと思うと有料のプレミアム版にしなければならない。
3.人数制限
一定人数の人は無料だが、それ以上は有料。
4.顧客のタイプによる制限
小規模で開業間もない企業は無料で、それ以外は有料。マイクロソフトのビズパークがその例だという。
5.適切な移行割は?
一般的には5−10%の有料会員と言われているが、クラブ・ペンギン(子ども向けオンライン仮想世界)は25%、ハボ(アバターチャット)10%、パズル・パイレーツ(オンラインゲーム)は22%だという。
6.無料ユーザーの価値は何か?
無料ユーザーでも最初の時期の無料ユーザーはサイトを有名にする効果があり、価値が高く、時間が経つに従って価値は下がる。
フリーを利用した50のビジネスモデル
無料ビジネスモデルは経済学では「内部相互補助」という。無料のように見えても結局誰かがコストを負担しているのだ。「この世にタダのランチはない」(There Ain't No Such Thing As A Free Lunch=TANSTAAFL)と言われ、ノーベル賞経済学者のミルトン・フリードマンが有名にした言葉だという。
無料のビジネスモデルには次の3つの類型がある。
1.フリータイプ1(直接的内部相互補助)
一つ買うと、一つタダというモデル(BOGOF=Buy One Get One Free)や、ケータイ電話を無料でもらえるとか。結局料金設定の一つの形態なのだ。
2.フリータイプ2(三者間市場)
広告で支えられているテレビ、ラジオ、無料タウン誌などがこれだ。
3.フリータイプ3(前記のフリーミアム)
普通は無料だが、機能が向上したプレミアム版は有料というモデルだ。たとえばこのLivedoor Blogも筆者は月々300円弱払って、プレミアム版を使っている。強制的に表示される広告がうっとうしいからだ。
それと付録では省かれているが、4番目のモデルの本当の無料モデルとして次がある。
4.非貨幣市場
ウィキペディアなど、対価を期待せずに人々が貢献するモデル。マズローの欲求段階説による最上位の自己実現欲や、コミュニティの一員としての意識、助け合い精神などの理由だ。
日本語版解説も参考になる
日本語版解説も参考になる。解説者兼監修者の小林弘人さんは日本版「ワイアード」誌編集長だった経歴を持ち、ITメディア分野で活躍している人とのことだが、この解説もさすがと思わせる内容だ。
単にこの本の内容を紹介するだけでなく、著者クリス・アンダーソンの前著「ロングテール」の紹介や、クリス・アンダーソンが編集長を務めるワイヤード誌の紹介、無料で電子版を公開するという前代未聞のこの本の販売方法が紹介されている。
ロングテール(アップデート版)―「売れない商品」を宝の山に変える新戦略 (ハヤカワ新書juice)著者:クリス アンダーソン
販売元:早川書房
発売日:2009-07
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フリーミアムの考え方は、この本の売り方にも取り入れられており、ハードカバーが発売された2009年7月に電子版をKindle向けに無料で配布したり、クリス・アンダーソン自身が朗読しているオーディオブックも無料でiTunesMusicStoreで配布されている。
筆者も早速iTunesMusicStoreでダウンロードしてみた。16編+プロローグ、付録など21編に分かれており、章によってはダウンロードに時間が掛かるが、ダウンロードが集中しているのかもしれない。
全部聞くと8時間くらい掛かりそうだが、現在聞いている"The Snowball"(ウォーレン・バフェットの伝記。全部聞くのに30時間以上掛かる)が終わったら、聞き始めてみる。
The Snowball: Warren Buffett and the Business of Life著者:Alice Schroeder
販売元:Bantam
発売日:2008-09-29
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日本語訳もわかりやすい
構成も良くできていると思うが、訳もわかりやすい。頭にスッと入る訳である。
同じような時期に出た「ブラック・スワン」は長時間掛けて読んだにもかかわらず、結局何が言いたいのか理解できず、あらすじ掲載を断念したが、この本は非常にわかりやすい。
ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質著者:ナシーム・ニコラス・タレブ
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2009-06-19
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いくつか参考になった事例を簡単に紹介しておく。
★モンティ・パイソンはYouTubeの違法映像に業を煮やし、公式高画質映像をYouTubeで無料公開したところ、アマゾンのDVD売り上げでベストセラーとなった。
★フリーの歴史1 ジェロ(Jell-O"、ゼリー)はジェロを使ったデザートレシピの本を無料で各家庭に配ることによって需要をつくりだした。1902年のことだ。
★フリーの歴史2 キング・ジレットは安全カミソリを無料で配った。そして替え刃を売って大きなビジネスとした。
★ペニーギャップ たとえ1セントでも有料とした途端に消費者の手は止まる。「心理的取引コスト」と呼ばれるが、1セントだと買おうかどうしようか考える必要があり、それがブレーキになる。マイクロペイメントのような簡単な支払い方法でも支持は得られないという。
★マイクロソフトは中国での不正コピーを見逃していた。1998年にビル・ゲイツはワシントン大学で、次のように言ったという。「中国では1年に300万台のコンピューターが売れているにもかかわらず、人々は私たちのソフトウェアにお金を払ってくれません。
でも、いつの日か払ってくれるようになるでしょう。だからどうせ盗むならば、わが社の製品を盗んで欲しい。彼らがわが社の製品に夢中になっていれば、次の10年で私たちはお金を集める方法を考え出せるはずです。」
★グーグルでは「これは儲かるか?」という平凡な質問から始めたりはしない。純粋なデジタル世界にいる企業にとっては、そのアプローチは筋が通っているという。
★グーグルはコロンビア川沿いの水力発電所の近くに巨大データセンターを建設し、再生可能エネルギーによるデータセンター運営を進めている。壊れるまでの累積電力料金の方がマザーボードの価格より高いのだと。
★クレイグズリストは13年間でアメリカの新聞社の株価を300億ドルも減らした張本人。
★プリンスは2007年のロンドン公演の前に、「プラネット・アース」という新作アルバムのCDを無料でロンドンの新聞の「デイリーメール」に付けて280万部配った。100万ドルという特別の著作権料でも新聞社は70万ドルの損をしたが、これにより新聞社はブランド力を高めたという。
Planet Earthアーティスト:Prince
販売元:Sony
発売日:2007-07-23
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プリンスのロンドン公演は全21回分が売り切れで、プリンスは460万ドルの著作権料を諦めることで、2,340万ドルの公演収入を得たのだという。
★UCバークレーの物理学のミューラー教授の授業は、YouTubeのUCBerkeleyの専用チャンネルで公開されている。大学の物理学の講義だが、"Physics for future president"と題されているるだけあって、日常の出来事をわかりやすく解説している。
筆者の一番好きで、最も人気の高い授業は次だ。
最初の隕石が直撃するトヨタのコマーシャルには驚かされる。
これらの有名大学の授業料は年間数万ドルだが、講義内容をYouTubeに公開することによって、優秀な学生を惹きつけたいという考えのようだ。またミュラー教授の本もベストセラーになっている。
Physics for Future Presidents: The Science Behind the Headlines著者:Richard A. Muller
販売元:W W Norton & Co Inc
発売日:2009-09-21
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現在この本を読んでいるが、たとえば9.11の犯人がどうやって空港警備をくぐり抜けたかとか、燃料を満載した飛行機がどれだけの破壊力があるか、原子爆弾テロなど、興味を引く話題で物理をわかりやすく説明していて面白い。
★中国のミュージシャンは不正コピーをコストのかからないマーケティング手法と受け止めている。レコード会社にとっては大問題だが、アーティスト自身にとっては、ファンを拡大し、それによりメディアやCMに出演することで収入が得られ、コンサートツアーも成功するからだ。中国では不正コピーが95%を占めるという。
★ブラジルはオープンソースの利用で、世界の先頭にたっている。リナックスによるATMは世界最初で、政府・学校もオープンソースに切り替え中だ。「マイクロソフト・オフィスとウィンドウズのライセンスをひとつ取得するためには、ブラジルは60袋の大豆を輸出しなければならない」と政府の責任者は語ったという。
記憶に残る具体例も満載で、楽しく読める本だ。英語に自信のある人は。iTunesMusicStoreで著者自身が吹き込んでいる無料オーディオブック(Podcast)をダウンロードして聞くのも良いだろう。
大変参考になる本だった。
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