2012年09月22日

孤高のメス 神の手にあらず 完結編 今度はマンガチックではない

孤高のメス―神の手にはあらず〈第1巻〉 (幻冬舎文庫)孤高のメス―神の手にはあらず〈第1巻〉 (幻冬舎文庫)
著者:大鐘 稔彦
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外科医で病院長の大鐘稔彦さんの「孤高のメス 外科医当麻鉄彦」に次ぐ完結編。

孤高のメス―外科医当麻鉄彦〈第1巻〉 (幻冬舎文庫)孤高のメス―外科医当麻鉄彦〈第1巻〉 (幻冬舎文庫)
著者:大鐘 稔彦
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「外科医当麻鉄彦」で日本で初めて脳死肝臓移植を成功させた外科医当麻鉄彦のその後を描く。

「孤高のメス」は映画化もされており、堤真一が当麻鉄彦を演じている。



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当麻鉄彦は日本で初めて脳死肝臓移植を成功させたが、脳死が人の死と認められる臓器移植法が成立する1997年より以前のことだったので、マスコミのバッシングに加え、病院内でも身勝手なスタンドプレイだと非難する医者が出る。

甦生病院長は医者を送ってくれる大学医局とのつながりを考えて、反・当麻派の意向を無視できず、当麻はいたたまれなくなって、亡き母の教え子の経営する台湾の大病院に当麻を慕う矢野と一緒に移る。

台湾でもエホバの証人の信者の無輸血手術を何例も成功させ、外科医として名声を博し、最後には義父の2度目の脳死肝臓移植手術を台湾で成功させるが、フィアンセの大川翔子にがんが見つかり、当麻は自分の手で手術しなければならなくなる。

台湾の病院オーナーが肝臓疾患で亡くなると、病院の経営をめぐって骨肉の争いが起こり、当麻はこれを潮時として、日本に戻り、鉄生会という徳洲会を想起させる病院チェーンの傘下となった甦生病院に帰任し、翔子と結婚するが…。

というようなあらすじだ。

甦生病院の経営のいざこざや医療過誤が取り上げられているが、あとがきで作者の大鐘さん自身がかつてホスピスを創設しながら、退任せざるをえなかった事情があり、それをモチーフにしたことを記している。

当麻の師である関東医大の羽島富雄のモデルは、天才外科医・故・羽生富士夫東京女子医大名誉教授だという。

小説のあらすじはいつもどおり詳しく紹介しない。前作同様、外科医だけあって、手術の様子は専門用語を交えて、やたら詳しい。しろうとは手術の部分は読み飛ばしてもよいかもしれない。

一般人の感情からして、たとえば肉親の心臓が動いているのに脳死で死と判定されるようなことになっても、死んだと受け入れられないと思う。

しかし、この作品を読むと、医療技術と医療機器の進歩で、脳が死んでも心臓はじめ他の臓器は一定期間生き続けるということが可能となったから、このような事態が起こっていることがわかる。

つまり、今のような医療機器がない昔は、脳死=個体の死だったのが、医療機器により、心臓やほかの臓器は脳死が死んでも動いている時間が増えたということだ。

前作のような、見学者にいきなり手術を手伝わせるというようなマンガチックな要素はなく、小説として仕上がっている。

作者の大鐘さんがどうしても書きたかったという病院内の抗争や医療過誤隠ぺい工作の部分が長く、作者の書きたいテーマと読者が読みたいテーマのギャップが感じられる面があるが、楽しめる作品である。


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Posted by yaori at 00:12│Comments(0)TrackBack(0) 小説 | 医療

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