2020年05月14日

1984年 今日的意義があるジョージ・オーウェルの名作

2020年5月14日再掲:

4月7日の非常事態宣言以来、仕事では外出していないので、自宅でユーチューブを見る機会が増えた。多くのチャンネルをチェックしているわけではないが、最近のお気に入りは、オリエンタルラジオの中田敦彦さんの「YouTube大学」だ。

原稿も見ずに、ホワイトボードに書いた要点のみを頼りに、毎回1時間程度の講義を、2回から3回にわけて、素人にもわかりやすく解説してくれるのは、さすがに吉本で鍛えられた芸人だけある。しかも、その講義の内容が、現代社会の教養として役立つものばかりで、筆者も大変勉強になった。

その中田さんが、今回はジョージ・オーウェルの「1984年」を取り上げているので、筆者のあらすじを再掲して、紹介する。

筆者は、ノンフィクションもののあらすじは詳細に紹介するが、小説のあらすじは「ネタバレ」になってしまうので、詳しく紹介しない主義だ。しかし、中田さんの場合には、解説付きの完全な「ネタバレ」となっているので、筆者のやり方とは異なる。

これだと、紹介された本の内容は理解したので、本自体を「読まなくてもいいか」という気になってしまうと思うが、これはこれでためになるだろう。





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2013年10月9日初掲:

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)
ジョージ・オーウェル
早川書房
2009-07-18


ジョージ・オーウェルの「1984年」を読んだ。

今まで学生時代に読んだと思っていたが、今回読み直して、実は自分の読んだのは「動物農場」で、「1984年」は読んでいないことがわかった。勘違いしていた。

動物農場 (角川文庫)
ジョージ・オーウェル
角川書店
1995-05


「1984年」は村上春樹の「1Q84」にも影響を与えている。

1Q84 BOOK 1
村上 春樹
新潮社
2009-05-29


このブログで紹介したフランソワ・トリュフォー監督が映画化した「 華氏451度」や2018年のHBOのリメイクにも影響を与えている。





「ビッグ・ブラザー」とか、「テレスクリーン」とか、「1984年」に出てくる主要な題材は多くの人が知っていると思う。

アップルがマッキントシュ・コンピューターを販売した1984年のスーパーボウルでの伝説のコマーシャルは、「ビッグ・ブラザー」と「テレスクリーン」を登場させている。



今はアマゾンに抜かれたが、一時はアップルが時価総額で世界最大となったことは、1984年当時は全く想像すらできなかった。このCMは巨人マイクロソフトに立ち向かうアップルのマッキントッシュPCという設定だ。隔世の感がある。

自分でも今回読んだばかりなので、エラそうなことはいえないが、ばくぜんと知っていることと、解説も入れて文庫で約500ページのこの作品を読むこととは全く別物だ。

いつも通り小説のあらすじは簡単にだけ紹介しておく。

時は1984年。

世界は、第3次世界大戦の核戦争の後、南北アメリカと一部アフリカとオーストラリアの大部分と一緒になったイングランド(エアストリップ1=第一滑走路という地名に変わってる)が属するオセアニア、ヨーロッパとロシア、トルコなどが属するユーラシア、日本と中国を中心とするイースタシアの3国に分かれている。

北アフリカ、中東、インド、東南アジア、北オーストラリアの紛争地帯をめぐって、いつ終わるともない戦争が起こっていた。

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出典:Wikipedia

食料や物資は常に不足し、配給はどんどんカットされる。時折ロケット弾が爆発して、死人が出ている。人びとは人口の85%を占める無学な労働者階級のプロールと、15%の一般人に分かれ、イングソック(旧イギリス社会党)が国を支配していた。

プロールは、酒とギャンブルやポルノでその日暮らしをしていた。プロールは下層民=アンタッチャブルとして、一般人のルールには従わなくてよい。だからテレスクリーンもプロールの家にはない。イングソックはポルノ課でポルノを制作させてプロールに配布していた。

イングソックは「ビッグ・ブラザー」という黒い口ひげの男が指導しており、一般人の住んでいる家には双方向テレスクリーンがもれなく設置され、常時監視されていた。

主人公のウィンストン・スミスは、真理省で「ビッグ・ブラザー」の予言と異なる現実が生じるなど、不都合な事実が生じると、新聞や雑誌を含めて、過去の記録をすべて改ざんする作業に従事していた。

たとえば党は飛行機を発明したと党史には記されている。

人びとは相互に監視し、子供が親を告発すると親は蒸発する。蒸発した人は、死刑に処せられているのだ。親を告発した子供は英雄気取りだ。

ウィンストンの父は彼が2−3歳のころに 蒸発した。 ウィンストンが12歳の時に、母と妹も蒸発した。

ウィンストンは現在39歳。一度結婚したが、妻のキャサリンとは性格不一致で長いこと別居している。一般人には離婚が許されないのだ。

ウィンストンが真理省で働いていると、同僚の二人が気になり始める。

一人は上司のオブライエン。イングソックの中枢にいる党幹部で上流階級だが、どうやら党に叛旗を翻す方策についてウィンストンと秘密の話をしたいらしい。もう一人は同じ真理省の別の部署で働く26歳の女性ジュリア。あるとき彼女はつまづいたフリをして、彼に愛を告白する紙切れを手渡す。

ジュリアとウィンストンはプロールの家の一部屋まで借りて逢瀬を重ねた。プロールの家にはテレスクリーンがないからだ。

あるときウィンストンがジュリアと一緒にオブライエンの大邸宅を訪問すると、オブライエンは反政府活動に属していると告白し、反体制派で今は亡命しているゴールドスタインの本をウィンストンに手渡す。

ウィンストンはゴールドスタインの本を読んで、なぜ党のスローガンが「戦争は平和である (WAR IS PEACE)、自由は屈従である (FREEDOM IS SLAVERY)、無知は力である (IGNORANCE IS STRENGTH)」となっているのかを知る。

イングソックは、人びとの言語を英語(オールドスピーク)から、ニュースピークに変え、人びとが複雑な思考ができないように語彙を極端に減らしたのだ。たとえば形容詞は、良い、非・良い、より・良い、より・非・良い、超・良い、超・非・良いの6語しかない。

そして二重思考(ダブルシンク)と呼ばれる洗脳を行った。党のスローガンのように矛盾することでも、どちらも真実と受け止める思考方法だ。たとえば2+2は5だと言われたら、それは真実だと反射的に言わなければならない。それが二重思考の正しい反応だ。

ゴールドスタインの本でイングソックが人びとの思考をコントロールしようとしていることに気がついたウィンストンは…。


「1984年」は今でも十分通用する寓話だ。元々はソ連を念頭に書かれた小説だが、主人公のウィンストンが真実省で担当している歴史を政府の都合の良いように書き換えることなど、どの国でも大なり小なりやっていることだと思う。

たとえば日本には右と左の両方の教科書問題がある。左は家永教授の教科書検定問題。右は新しい歴史教科書をつくる会の運動だ。

それ以外でも「敗戦」なのに、「終戦」と言い換え、「占領軍」を「進駐軍」と言い換えている。これはGHQ=占領軍の統治がやりやすいようにという配慮が発端だろう。

筆者は、別に韓国と中国についてことさら悪く言うつもりはないが、最近読んだ本のなかでも、いくつか例がある。

たとえば韓国では民族主義の影響で、「日帝36年」の間は朝鮮民族は朝鮮総督府の圧政に苦しんだと歴史の教科書に書いている。

しかし、実際はかなり違うことは、このブログで紹介した呉善花さんの「韓国併合への道」や、今度紹介するソウル大学の李榮薫教授の「大韓民国の物語」に詳しい。




大韓民国の物語
李 榮薫
文藝春秋
2009-02



呉さんは、「私はいかにして『日本信徒』となったか」の中で、戦後韓国の漢字を排除してのハングル一本やりの教育の弊害は、日本人が想像する以上に大きいものがあると語る。

漢字の廃止は、韓国人から抽象度の高い思考をする手だてを奪ってしまったのだと。高度な概念を漢字の表意性をぬきに、ハングルの表音性だけで自由に用いることは無理が伴うのだ。

今は漢字+ハングルや、英語+ハングルとなっているので、問題はないと思うが、ハングル一本やり政策は、ニュースピークの実例のように思える。




呉さんも李教授も圧倒的少数派で、呉さんは韓国から入国を拒否されているし、李さんは韓国内でつるし上げられている。

親日派は少数派だが、日本統治時代の朝鮮の近代化を、支配階級の「両班」の見地からでなく、一般国民の見地から見直そうという一部の動きもあり、次のような論文集も米国で発刊されている。




中国も共産党の正統性には抗日が不可欠だとして、反日教育をしていることが知られている。これによく使われる題材は「南京大虐殺」だ。

たとえば小林よしのりの対談集・「新日本人に訊け」に登場する中国から日本に帰化した石平さんは、「南京大虐殺」が知られるようになったのは、朝日新聞の本多勝一記者の「中国の旅」が出た後だと語る。

新日本人に訊け!
小林よしのり
飛鳥新社
2011-05-11



中国の旅 (朝日文庫)
本多 勝一
朝日新聞出版
1981-12


本多記者は日本軍が30万人を虐殺したと書いたという。当時の南京の人口は20万人だったのにもかかわらずだ。現在でも「南京大虐殺紀念館」には30万人という数字が掲げられているという。

石平さんは、あの時代の中国の状況がどうだったかよく知っているという。本多記者の取材した中国人は全員中国共産党に事前にブリーフィングを受け、「この質問にはこう答えろ」という想定問答集を用意して、丸暗記したことを語ったのだと。

本多記者は、中国共産党のプロパガンダの道具として使われたに過ぎない。

石平さんもあの本が出るまで「南京大虐殺」など知らなかったと。これは世界のプロパガンダ史上、最大の奇跡だという。


脱線したが、このように「1984年」は今日的な意味があり、今読んでも新鮮味を失っていない。

「ビッグ・ブラザー」など、よく知られているストーリーだからといって読まずに済まさないで、一度手に取ってみることをおすすめする。


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Posted by yaori at 00:12│Comments(0) 小説 | 中田敦彦