
著者:石井 彰
NHK出版(2011-07-07)
販売元:Amazon.co.jp
日経新聞記者を経て、石油公団で資源開発に携わった石井彰さんの本。石井さんは、現在はエネルギー・環境問題研究所所長で、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)特別顧問となっている。
サブタイトルにあるように天然ガス活用と、コジェネレーションや燃料電池を含めたエネルギー源の分散を提唱している。
アマゾンの「なか見!検索」に対応しているので、まずはここをクリックして目次を見てほしい。章や節のタイトルだけでなく、セクションの題も載っているすぐれた目次である。目次だけ見ても本の概要が大体わかるだろう。
…と書いたら、いつの間にか「なか見!検索」では目次は表示されなくなった。残念だ。
章と節のタイトルだけ次に記しておく。
第1章 エネルギー問題がなぜ重要なのか
第1節 エネルギーとは何か
第2節 エネルギーは人命を守る
第3節 エネルギーがつくった文明史
第2章 技術革新の陰に化石燃料あり
第1節 化石燃料はなぜ近代化を促したのか
第2節 石油はなぜチャンピオンになったのか
第3節 エントロピーから考えるエネルギーと文明の関係
第3章 虚飾にまみれたエネルギー論争
第1節 エネルギー論争のウソ
第2節 コストで比較する原子力と再生可能エネルギー
第3節 二元論者の奇妙な相似
第4章 知られざる天然ガスの実力
第1節 「天然ガス後進国」ニッポン
第2節 葬られたガス・パイプライン計画
第3節 国際的にすすむ天然ガス革命
第5章 21世紀型の省エネとエネルギー安全保障
第1節 省エネの盲点
第2節 コジェネレーションの可能性
第3節 原子力代替は天然ガス+再生可能エネルギーで
第4節 エネルギーの安全保障
参考になったポイントを紹介しておく。
★巨大な黒部第4ダムでも発電量はガス火力発電所の半分しかない。
映画「黒部の太陽」の舞台となった巨大な黒部第4ダムでも最大出力は33万KWで、天然ガス火力発電所の1系列よりも小さい。
福島第一原子力発電所の能力は1〜6号機合計で約500万KWあった。原子力発電所や火力発電所のなかには、1か所で1000万KWくらいの出力があるものもあるので、水力発電の比率は今後とも低下していくだろう。
ちなみに三井物産が最近発表したブラジルの流れ込み式水力発電所は、完成時には375万KWの能力だ。建設コストは8,000億円と言われている。
★「石油はもうすぐ枯渇する」のウソ
1970年代には「石油はあと30年で枯渇する」という議論が一世を風靡した。筆者も学生の時にローマクラブの「成長の限界」を読んだ。

著者:ドネラ H.メドウズ
ダイヤモンド社(1972-05)
販売元:Amazon.co.jp
今は、現在の生産量と価格であれば、100年位くらいは生産可能な資源が存在していると言われている。
天然ガスについては、シェールガス革命もあり、現在の生産量でもあと400年は生産可能だ。石炭についても数百年分の生産が可能な資源がある。
★省エネ家電はエネルギー問題の解決にはならない
日本の全エネルギーのうち、電力の占める割合は25%程度だ。そして家庭で直接使用する電力は全電力消費の3割以下。だから家庭で使用する電力は日本の全エネルギーの1割程度だ。
省エネ家電はエネルギー節約にはなるが、これがエネルギー問題を解決することにはならない。
★CO2排出量では発電方式も要チェック
同一エネルギー出力に対するCO2排出量だと次のような順番となっている。
石炭>石油>天然ガス>天然ガス・コンバインドサイクル
コンバインドサイクル発電とは、まず化石燃料でガスタービンを回して発電し、発生した高温の排気をボイラーで蒸気タービンに送ってもう一度発電するものだ。
★太陽光発電の能力と稼働率のギャップは大きい
日本では、太陽光発電はカタログ発電能力のせいぜい11〜12%くらいしか発電できない。日照時間が足りないからだ。砂漠でも昼間や好天の日しか発電できないので、稼働率は20%程度だという。
大規模太陽光発電所の発電能力が何千世帯とかいっているのは、ほとんどの場合「夏至の日の快晴の場合の瞬間最大発電能力」にすぎないという。
★新規発電所の電源別コスト比較
次がこの本で引用されている米国エネルギー省エネルギー情報局の2009年のエネルギー白書の資料だ。

出典:本書123ページ
エネルギー情報局はエネルギー省傘下ではあるが、エネルギー長官の指示は受けないことになっている独立の機関だ。
★ドイツの太陽光発電は発電全体の1〜2%
ドイツの発電の16%は再生可能エネルギーとなっているが、2割は水力発電、風力が4割、バイオマスが3割で、太陽光発電は1割以下だ。
ドイツの場合、フランスから電力を輸入できるので、自国の原子力発電をなくしても、EU全体の原子力発電依存度はあまり変わらない。フランスの電力は大半が原子力発電だからだ。
★カリフォルニアのモハベ砂漠の世界最大のメガ・ソーラー発電所の発電能力は10万KW
カリフォルニアのモハベ砂漠で計画されている世界最大のメガ・ソーラー発電所の最大出力は40万KWとされているが、砂漠であっても太陽光発電の稼働率は2割程度なので、実質的には10万KWの発電能力しかない。
これは通常の天然ガスコンバインドサイクル発電機1系列の1/4の発電能力だ。おまけに、砂漠から需要地までの送電ロスが大きく、仮に3,000キロとすると、使用可能電力は半分となってしまう。
★ヒトラーの対ソ開戦は、合成石油増産不調が原因
このブログの「大気を変える錬金術」のあらすじでも紹介したナチスドイツの合成石油生産のことが、この本でも紹介されている。

著者:トーマス・ヘイガー
みすず書房(2010-05-21)
販売元:Amazon.co.jp
ヒトラーは原油生産コストの5倍から10倍のコストをかけて、IGファルベンのロイナ工場などで合成石油を生産させていたが、大増産計画目標は達成できなかった。
1939年9月のドイツのポーランド侵攻を見て、ソ連は1939年11月末にフィンランドを占領すべく攻め入ったが、小国のフィンランドを屈服させることができなかった。
翌1940年3月に停戦してフィンランド領土を10%のみ獲得することにとどまった(冬戦争)。このフィンランド戦争でのソ連軍の弱体ぶりを見て、ヒトラーは対ソ開戦を決め、ソ連の石油を確保しようとしたのだという。
フィンランド防衛戦で活躍したのが、500人以上を狙撃したという「白い死神」と呼ばれた天才狙撃手シモ・ヘイヘだ。シモ・ヘイヘについては、次の本を最近読んだ。

著者:ペトリ サルヤネン
アルファポリス(2012-03)
販売元:Amazon.co.jp
フィンランドは、1941年6月に独ソ戦が開始した後、枢軸国側についてソ連との戦争を再開し、一時は冬戦争で奪われた領土を奪還した。継続戦争は1944年まで続いた(継続戦争)。しかし、奪われた領土は、結局再度ソ連に取り戻されるという結果となった。
★日本のガスは元々石炭から製造していた
ガスのことが「天然ガス」と呼ばれるのは、日本のガスは元々石炭から製造していたからだ。天然ガスは無色無臭で、都市ガス用に供給するときは、においをつけておく。
日本の都市ガス配給網は国土面積でわずか5%で、それ以外はプロパンガス等である。天然ガスを液化させるには、マイナス162度という超低温が必要だが、プロパンガスは圧力を加えれば、常温でも液化する。
だから一般家庭用などは、ブタンガスと炭素成分の多いプロパンガスをまぜてLPGとして広く流通しているのだ。
★日本の一次エネルギーに占める天然ガスの比率は15%と低い
ドイツなどEU諸国は25%、英国やイタリアは40%、米国も25%、ロシアでは50%だという。
ロシアのエネルギーバランス
日本のエネルギーバランス
世界のエネルギーバランス

★サハリンガス・パイプライン計画は電力会社の反対で葬られた
サハリンから需要地の日本までは2,000キロと近く、パイプラインが経済的に建設できる距離だ。
しかし日本の電力会社はLNGによる輸出に固執して、サハリン・ガスパイプライン計画を葬った。
将来電力自由化になると、パイプラインの途中で多くの自家発電所や独立発電所が建設され、自らの競争力が脅かされることを恐れたからだ。
こういった政治的な事情のない中国や韓国ではすでにガスパイプラインによりガスを輸入したり、国内に流通させている。
★廃熱を利用するコジェネレーション
森ビルの六本木ヒルズは、東京ガスとの合弁で地下に4万KWのコジェネの自家発電を持っており、ビルで消費する電気と冷暖房の熱をすべてまかなっている。
東日本大震災の時は、東電にも余剰電力を販売した。このような廃熱を利用できるコジェネのエネルギー利用効率は90%と極めて高い。
★家庭用燃料電池
都市ガスを原料とする家庭用燃料電池も発電効率が40%前後と高い。「エネ・ファーム」の商品名で販売され、補助金ももらえる。
石井さんは、チャーチルの言葉を引用して「供給安全保障の要諦は、一に多様化、二に多様化、三に多様化」だと結論づけている。この言葉は、第一次世界大戦前に海軍大臣となったチャーチルが、軍艦の燃料を石炭から石油への転換を推進した時のものだ。
最後に次のようなスマート・コミュニティの概念図を紹介している。

出典:本書205ページ
エネルギー全体については、あらすじをまだ紹介していないがダニエル・ヤーギンの「探究」が良くまとまっている。

著者:ダニエル・ヤーギン
日本経済新聞出版社(2012-04-03)
販売元:Amazon.co.jp
ヤーギンの本はそれぞれのエネルギーの歴史まで詳述した上・下900ページの大作だ。
石井さんの本は新書でも必要なポイントを抑え、よくまとまっている。
人類が動物との生存競争に打ち勝ったのは、加熱調理のためだと石井さんは語る。
さらに農業革命と産業革命でエネルギーを自由に利用できるようになって、人類の人口は爆発的に増加した。また、冷暖房が普及し、生活環境は格段に良くなって死亡率が低下し、寿命も飛躍的に延びた。
そんなエネルギーの歴史もふまえて、エネルギーを考える上で必要な基礎知識がわかる本である。
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