2016年04月23日

メジャーリーグの英語 ColdじゃなくてCalledだったんだ



メジャーリーグの野球中継でよく使われる英語を投手用語、打者用語、守備用語などのカテゴリーや、トピックス、有名人、メジャーリーグ観戦術などの分野に分けて紹介した本。

あまり難しい英語はないので、簡単に読める。

この本で一番難しい英語は、たぶんアメリカ国歌だろう。

次に一番の歌詞だけ引用する。

Oh, say can you see,
by the dawn's early light
What so proudly we hailed
at the twilight's last gleaming?

Whose broad stripes and bright stars,
through the perilous fight.
O'er the ramparts we watched
were so gallantly streaming?

And the rockets' red glare,
the bombs bursting in air,
Gave proof through the night that
our flag was still there,

Oh, say does that star-spangled
banner yet wave.
O'er the land of the free
and the home of the brave!



難しい歌詞だし、難しい旋律だ。

この本の収穫は、筆者が間違って覚えていた単語があったことだ。

たとえばコールドゲーム、てっきりCold Game、つまり盛り上がりに欠ける試合という意味だと思っていた。ところが、これはCalled Game、つまり審判によってCall=宣告されたゲームで、審判が試合終了をCallしたから、Called Gameとなるのだ。

おなじように、見逃し三振もCold Strikeだと思っていたら、Called Strikeだった。これまた、審判がストライクとCallして三振という意味だった。

筆者が米国のピッツバーグに駐在していた時に、小学生の長男は町の少年野球チームに入っていた。

全米がそうなのか、たまたま筆者の住んでいた町がそうなのかわからないが、筆者の住んでいたUpper St. Clair(アッパー・セント・クレア)という町は、少年野球参加希望者13人ごとに1チームを編成して、どんなに下手でも必ず試合に出られるように編成する。

ピッチャーも毎回変えて、誰でもピッチャーとなれ、誰でも打席に立てるようにする。

下手でもなんでもいいのだ。

1チームに一人、父兄のボランティアコーチがいて、そのコーチがポジションや打順を決める。

守備は9名だが、打撃は13名全員が順番で打席に立ち、特に交代などなかったと思う。

小さい時から野球に親しむことが目的の育成方法だ。

もちろん日本の様に軟式野球ボールはないので、はじめっから硬球、金属バットだ。

コーチは、"ノー・コールドアウト"といって、バッターを送り出していた。筆者は"Cold out"つまり、手を出さない消極的な三振だとおもっていたら、これも"Called out"つまり、審判に宣告された三振=見逃し三振だったのだ。

米国では、どんどんバットを振っていって、空振り三振は"Good try"といってほめる。四球=Walkを選んだり、ボール球を見送ったりすると、"Good eyes"といって、またほめる。

子供を叱らず、ほめて育てる文化なのだ。

この本では、「Money Ball」で話題になった、SABERMETRICSの考案者、ビル・ジェームズについても「常識として知っておきたい人たち」というコーナーで紹介している。

「Money Ball」では、アスレティックスのGM,ビリー・ビーンのことが中心で、SABERMETRICSを発案したビル・ジェームズについては、簡単に紹介しているだけだ。

ビル・ジェームズは熱心な野球ファンとして、既成観念にとらわれず、データを分析して、独自の理論を打ち出した。

投手は、勝率や勝利数でなく、WHIP(Walk plus Hits per Inning Pitched、つまり四球とヒット数を投球回数で割ったもの)、打者は打点や打率でなく、OPS(On-base Plus Slugging、つまり出塁率に長打率を足したもの)で評価すべきだというのが、ビル・ジェームズの理論だ。

このブログでも「Money Ball」の映画「マネー・ボール」の本を紹介しているので、参照してほしい。






ついでに、たけしの「野球小僧の戦後史」も紹介しておく。たけしと野球のかかわりで、戦後史の一面を描いた本だ。

たけしが明治大学出身なことは知っていたが、明治大学の理工学部は神奈川県川崎市の生田にあり、たけしは足立区の東武線の梅島駅の近くに住んでいたので、片道2時間かかったという。

たけしは昭和22年生まれの団塊の世代で、昭和40年に明治大学の機械工学科に入ったが、学生運動が活発な時期で、授業にも影響がでて、結局たけしは大学に行かなくなり、5年で除籍処分となっている。




明治大学は、その後平成16年にたけしに「特別卒業認定証」を送って、卒業扱いとしている。当時は学生運動が活発な時で、たけしは学業を続ける意欲を3年でなくしたが、それまでに106単位を取得しており、そのままいけば卒業は問題なかったし、たけしの母親は5年間学費を納めていたからだと。

昭和34年の「天覧試合」では、長嶋のサヨナラホームランが有名だが、この試合で新人の王もホームランを打ち、長嶋は2本のホームランを打っていることを初めて知った。

気軽に読める本である。


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2010年06月07日

村上式シンプル英語勉強法 もう遅い なんてことは 絶対に ない

村上式シンプル英語勉強法―使える英語を、本気で身につける村上式シンプル英語勉強法―使える英語を、本気で身につける
著者:村上 憲郎
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2008-08-01
おすすめ度:4.0
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元グーグル本社副社長・日本法人社長の村上憲郎(のりお)さんの実戦的英語勉強法。このブログでは「村上式シンプル仕事術」を紹介した

英語はいわば「2台めの自転車に乗る方法」だから、必要なことしかやらない。高額教材はいらない。英語を頭で考えず体に覚えさせる、というのが村上さんの英語勉強法の特徴だ。

英語が使えることが目標なので、村上さんの発想は参考になる。


村上さんの英語勉強法

村上さんの英語勉強法の骨子は次の5点だ。

1.英語を読む そのためには300万語読む
300万語は小説で30冊、ノンフィクションで15冊程度。読むときは「息継ぎをしない」というのがポイントだ。

たしかに途中で「息継ぎ」して他の本などを読むと、いままでの筋を忘れてしまうことがある。英語は集中して読め、というのが村上さんのメッセージだ。

2.単語を覚える そのためには毎日1万語を眺める
丸暗記ではなく、毎日眺めるのがポイント。

3.英語を聴く トータル1000時間 筋トレ感覚で聴く
テキストは見ず、ひたすら耳を鍛える。

4.英語を書く 「英借文」とブラインドタッチを身につける
英語は作文ではなく、タイプすることが「書く」ことだ。

5.英語を話す 
「あいさつ」、「依頼」、「質問」、「意思表現」、「相手の意向を聞く」の5パターンの基本表現を覚える。自分及び自分の関心事で100の英文を丸暗記。


村上さんも英語ができなかった

村上さんが英語を本格的に勉強しはじめたのは、31歳で日立電子から外資系のDECに転職した時だ。生まれて初めて海外旅行し、アメリカで研修を受けたが、全くしゃべれなかった。

帰国後も外人からの電話をわざと取らされたりで、コンチクショー!と思ったという。

それで絶対に英語を身につけてやると決心した。劣等感が、村上さんの英語上達の原動力だ。

筆者も村上さんと同じように、最初の海外旅行がアルゼンチンへの赴任だった。

いまでこそTOEIC945点だが、最初の海外赴任のために乗ったパンナム機で、米人スチュワーデスに「ミルク」が通じず、結局ビールを持ってこられた屈辱が筆者の英語上達の原点だ。

それ以外にも何度も、「もっと英語を上達してやる!」と思ったことがある。屈辱感と「絶対に英語をものにする」という強い意志が、英語上達の秘訣だ。

村上さんは、「もう遅いなんてことは、絶対に、ない。」、「誰でも、どこにいても、努力すれば、勉強すればいくらでも伸ばせる。それが英語だ。」と語る。まさにその通りだと思う。


英語を読む

英語を読むとは、英語を英語のまま(日本語に置き換えないで)、内容を英語で読むことだ。これが英語上達の第一歩だ。

何語を学ぶにも、日本語に置き換えないで考えることが必要だ。


単語を覚える

単語を覚えるためには、平日は3,000語、土日は1万語ひたすら眺める。眺めているうちに覚えるのだと。熟語、イディオムは捨てて良いと。

筆者はこのやり方はやったことがない。筆者は20年以上「タイム誌」を購読していた。わからない単語をハイライトしておき、後で辞書で調べるという作業をコツコツ20年間行った。

1ページに下手すると5も10も、わからない単語に出くわすという状態は最後まで変わらなかった。しかし、地道に辞書を引いて覚えたので、英語のボキャブラリーというよりは、適切な英単語の選択、いいまわしには絶対の自信がついた。

会話は誰でも一定期間勉強すればできるようになる。英語のうまい下手は、結局書いたものの勝負で、その決め手は絶妙な単語の選択ができるかどうかだ。

「タイム誌」を読んでいると、単語の選択にはほれぼれする。実に適切な単語を選択して、記事を書いているのだ。


英語を聴く

英語を聴く力は、「耳の筋力」で「知力」ではない。1日1時間 X 3年=合計1,000時間聴くのだと。

リスニングのおすすめとして、ダボス会議のサイトやCNN,Newsweekのサイトが紹介されている。

weforum








世界経済フォーラムのページでは各国語にその場で翻訳できる機能が付いている。

筆者が愛用しているaudiobookのサイトAudibleもおすすめだ。
audible






現在筆者はウェレン・バフェットの伝記、"The Snowball"を通勤時間に聞いている。全部で37時間という大作だ。

The Snowball






これまでバフェットのインベスターとしての公的生活しか知らなかったが、この伝記には私生活のことも多く書かれている。

正直バフェットという人は好きになれない。どこに旅行しても食べるのはハンバーガーとフレンチフライだし、ソニーの盛田さんのニューヨークの家に招待されたときは、出された15皿のスシを一口も食べなかった。中国にビルゲイツと経済ミッションで旅行したときも、食べるものはハンバーガー(かステーキ)とフレンチフライだけ。

家族はいるが、奥さんとは長年別居しているが、公的行事には奥さんと出席する。オマハの自宅に公認の愛人と住んでおり、公的行事に愛人と出席することもある。お母さんの家系は精神病の家系で、いろいろな人が自殺したり、発狂したりしている。

ビル&メリンダ・ゲイツ財団に100億ドルもの寄付をして、アンドリュー・カーネギーの言葉通り、「富を持って死ぬことは不名誉である」を実践したが、それでも好きなタイプの人ではない。

もうすぐ37時間のオーディオブックを聞き終えるので、聞き終えたら内容を紹介する。


英語を書く

村上さんは「英作文は無理。英借文しかない」と気づいてから、すごく気持ちが楽になったという。英借文用のテンプレートをストックせよと。

筆者はいまでこそネイティブ並みの英文レターを書ける自信があるが、実は最初のピッツバーグ駐在の時に、大学でコミュニケーションを専攻した米人若手社員にビジネス文例集をつくってもらって、それがベースとなっている。

海外赴任する得意先の人にも、その文例集をコピーしてプレゼントしたら喜ばれたものだ。

その意味でも村上さんの「借文」は正しい考え方だと思う。

ちなみに村上さんは、借文よりまずタイプだと語る。ブラインドタッチをマスターすることが作文よりも前にすべきことだと。

そして内容よりレターのフォーマット(見栄え)が重要だ。英文レターは読みにくかったらダメ。米国はフォーマット重視の社会だと。

この点は筆者も賛成だ。筆者はまず英文レターを書くときは、フォントや行数を調整して1ページに極力全部収まるように書く。そしてパッと見て、そのレターが美しいかどうかを重視している。

内容も勿論だが、やはりレターは読みやすく、美しい方がよい。


英語を話す

英語を話すについては、日常英会話は5パターンしかない。つまり、

1.あいさつ

2.依頼する たとえば"Could you please..."とか、"Can I..."を自分の常套句にする。

3.何かを尋ねる

4.意思を伝える たとえば"I'd like to..."とか"I will..."とかの文例だ。

5.相手の意向を聞く たとえば"Would you like to..."や"Shall I...?"だ。

日常会話はこの5パターンのみというのが、村上流だ。

会話のもう一つのヒントは、どんな話でも自分の用意した100の話題に持って行くことだ。

英会話で最も難しいのは雑談だ。ビジネス会話なら話すことは大体決まっているので、慣れれば誰でもできるようになるが、雑談は教養と英語力の両方が必要だ。

普段から本や新聞・雑誌を読み、話のネタをストックしておき、それを小出しに使うのだ。

村上さんは、そのために100の話題を準備しろという。うまく相手を自分のペースに引き込み、あとは用意した100の話題から、TPOに応じて小出しにするのである。


以上村上さんの英語勉強法の5つのポイントを紹介した。実践的な英語勉強法で、誰でも効果が上がると思う。

筆者なりに一ひねりすると、これを是非通勤・通学時間に実践してほしい。

通勤電車に乗って思うのだが、本を読んでいる人はせいぜい2割くらいしかいない。あとはゲームかケータイ、あるいは寝ているかだ。

通勤・通学時間を有効利用することで、確実に他人に差をつけることができる。本を読んだり、オーディオブックを聴いたり、英単語を眺めたりすることで、選ばれた2割に入れるのだ。

時間は誰にも平等に与えられており、「継続は力なり」だ。通勤・通学時間などを有効利用して、村上さんやこのブログで紹介している英語勉強法を是非学んでほしい。


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2009年10月22日

「古代カルタゴとローマ展」に行ってきました チュニジア大使の「うな重方式」英語勉強法

2009年10月22日追記:

多賀さんの本にたびたび登場する会社の先輩(TOEIC970点!)と同僚で大丸で開かれている「古代カルタゴとローマ展」に行ってきた。

次は会場で配られていたチュニジア政府の観光案内だ。

Tunisia2





チュニジアの各都市の位置を示したのが次の資料だ。
Tunisia1





出典されていたのは、テラコッタの様々な像や瓶など、ギリシャ風の大理石の彫像、ガラス細工の置物や首飾り、指輪やコインなどの金属加工品、墓を飾った石柱装飾や彫刻された石棺、そしてモザイク画などだ。

古代カルタゴとローマ展」のサイトの写真をいくつか紹介しておく。

これが筆者が感心した金属加工による装飾よろいだ。ミネルヴァの女神像が彫られている。
work_05_l








紀元前3世紀というと日本では弥生時代にこれだけの精密な金属加工製品ができていたことに驚かされた。

極彩色のガラス細工の置物もきれいだった。そしてカルタゴ展を代表するモザイク画も見事だった。

バラのつぼみを撒く女性のモザイク像:

work_09_large










モザイクのメデューサ像。

work_10_large








これが石棺のふたの彫刻だ。下半身が羽となった女神が右手で鳩を持っている。

work_03_l








筆者が1980年代はじめにエジプトに出張した時に、先方の接待でエジプト料理のレストランに行き、鳩料理を食べたことを思い出す。なぜか「オム・デ・アリ(アリのお母さん)」というフルーツタルトのようなホットデザートを食べたことが記憶に残っている。

カルタゴの港は海の入口の商港とその奥にある軍港にわかれていたが、軍港にあった巨大な木製の人口島のモデルには驚かされた。

軍船200隻以上を収納可能だったそうで、中央は司令室、ドック自体は乾ドックとなっており、軍船を収納して修理したもので、当時の再現CGが流れていて大変興味深かった。

次のカルタゴの想像図で、丸い出島のようなものが描かれているが、これが軍港の乾ドックだ。

carthage_img2








カルタゴは今のシリアあたりに居たフェニキア人の植民地で、ローマと戦ったポエニ戦争でのハンニバル将軍の象を使ってのアルプス越えが有名だ。

カルタゴの最大領土(出典:Wikipedia)

CarthageMap




しかし第3次ポエニ戦争でローマ軍に破れ、住民はほとんど殺戮されたり奴隷にされて、不毛の地にするために土には塩がまかれ、カルタゴは徹底的に破壊されたという。もちろんこの軍港の巨大な木製人工島も破壊されたのだろう。

筆者はエジプトには出張したことがあるが、チュニジアには行ったことがない。ましてやカルタゴが現在のチュニジアにあることも知らなかった。アフリカにあるが、住民は見たところアラブ系の浅黒い人というよりは、白人が多いようだ。

この本の著者の多賀敏行さんがチュニジア大使で赴任されたので、おかげで知識が広がった。是非機会があれば「古代カルタゴとローマ展」も見て欲しい。


2009年10月18日追記:

「外交官のうな重方式英語勉強法」の著者多賀敏行さんは、今年7月に辞令を受けて、在チュニジア全権大使としてチュニジアに赴任されている。

そのチュニジアにちなんだ「古代カルタゴとローマ展」が全国各地で順繰りに開催されている。

現在は東京駅の大丸百貨店で10月25日まで開催されている。

カルタゴ





来週にでも一度行ってみようと思う。

それにしても今回カルタゴの英語読みのスペリングを初めて知った。"Carthage"(カーセージ)がカルタゴとは!

チュニジアはアラビア語国だが、フランス語も普及しており、多賀さんも昔独学で覚えたフランス語が役に立っているそうだ。

「芸」は身を助けると言うが、いろいろな国の言葉ができることも立派な「芸」だと思う。

その意味も含めて多賀さんの最新作「外交官のうな重方式英語勉強法」のあらすじを再掲する。


2009年3月11日初掲:

外交官の「うな重方式」英語勉強法 (文春新書)外交官の「うな重方式」英語勉強法 (文春新書)
著者:多賀 敏行
販売元:文藝春秋
発売日:2008-11
おすすめ度:3.0
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この本の最後のクレジットに挙げられている先輩に勧められて読んでみた。著者の多賀敏行さんはジュネーブ日本政府代表部公使や、バンクーバー総領事などを歴任した外交官で、現在は東京都知事本局の儀典長だ。

まず不思議なネーミングに興味がわく。

多賀さんが「うな重方式」と呼ぶのは、うな重は、ご飯、たれ、ウナギ蒲焼きが混ざって初めておいしいのであって、別々に食べても良さがわからない。

英単語もこれと同様に、名詞の前後の動詞なり、主語なりを一緒に覚えることで、記憶にとどめようというものだ。

たとえば日本の戦争責任について、カナダの新聞に"Japan's amnesia"というタイトルの記事が掲載されたことがあったが、"amnesia"とは健忘症のことで、日本の首相が靖国神社に参拝することに中国などが日本は戦争責任を忘れていると怒っているという内容の記事だ。

同じ記事に"The Japanese are contorting the truth"という文が出てくる。"contort"というのは難しい単語だが、"contort the truth"(事実を歪曲する)だと覚えやすい。

このような言い回しで英単語を覚えることを「うな重方式」と 多賀さんは呼んでいる。

筆者も今でこそTOEIC945点だが、会社に入ってアルゼンチンに研修生として赴任する時、パンナムのアメリカ人スチュワーデスに"milk"を頼んだら、何度言っても通じず、"milk","milk"と連呼していたら、結局ビールを持ってこられたときには落ち込んだ。

当時筆者は"L"と"R"の発音の区別ができなかったし、朝食時でもないのに、大の大人が牛乳を頼むというのも、スチュワーデスからすれば、ありえないことだったのかもしれない。

このことが教訓となり、それからはミルクを頼む時は、"(a glass of)fresh milk"と頼む様になり、特に"a glass of"を付け加えるようにすればカンペキになった。

これも多賀さんの言う「うな重式」の例になるのかもしれない。

TOEIC945点までになったのも、このパンナムの"milk"の件で発憤したことも大きいと思う。

ところで、アルゼンチンにいる間に"L"と"R"の発音ができるようになったので、その後の英語の進歩につながった。

アルゼンチンで"L"と"R"が区別できるようになったのは、ワインのおかげだ。

スペイン語で白ワインは”ビノ・ブランコ”だが、はじめはvino brancoという風に発音していた。ある時vino blancoと言えたら、同じ下宿のアルゼンチン人の友達が"L"が言えたじゃないかと祝福してくれた。

余談ながらポルトガル語では白ワインはvinho brancoだ。どういうわけかヨーロッパもポルトガルまで行くと他の国と"L"と"R"が逆転する。


200語を覚えると10,000語理解できる!?

多賀さんは昔の英語勉強法のベストセラー作家岩田一男さんの本を紹介し、100の接頭語(a, in, ex, re, conなど)と100の語幹(たとえばspire)を覚えると、マトリクスで10,000語の意味がわかる50倍の投資効率だと紹介している。

英単語記憶術―語源による必須6000語の征服 (カッパ・ブックス)
著者:岩田 一男
販売元:光文社
発売日:1967-03
おすすめ度:4.0
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筆者も岩田一男さんのカッパブックスの本を学生時代に読んだことがある。英語を語源で覚える英語勉強法の本はいくつもあるが、たぶん岩田一男さんの本が元祖ではないかと思う。

ちなみに接頭語の"a"や"con"は元々ラテン語起源で、"a"は英語の"to"だし、"con"は"with"である。


●冠詞が分かれば英語は分かる

そこそこ英語が出来る人には、冠詞の重要さ、冠詞の使い方の難しさは共通認識になっていると思う。

冠詞が正確に使えると、ネイティブと区別がつかない英文を書ける。

この本では多賀さんはいくつか例を紹介している。たとえば:

・Do you have time?(時間がある?)
・Do you have the time?(今、何時?)
・What is time?(時間とはなんであろうか?ー哲学的疑問)
・What is the time?(今、何時?)

・within a month(1ヶ月のうちに)
・within the month(その月のうちに)

・I ate a chicken in the backyard.(庭で一羽のにわとりを締めて食べた)
・I ate chicken in the backyard.(庭でチキンを食べた)

参考として次の2冊を紹介している。

国際ジャーナリストの英語術 (朝日新書)国際ジャーナリストの英語術 (朝日新書)
著者:村上 吉男
販売元:朝日新聞出版
発売日:2008-05-13
おすすめ度:3.0
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村上吉男さんはよく米国のメディアにも登場した英語の使い手だという。また日本人の英語についてのマーク・ピーターセン氏の本も、冠詞の使い方について参考になるという。

日本人の英語 (岩波新書)日本人の英語 (岩波新書)
著者:マーク ピーターセン
販売元:岩波書店
発売日:1988-04
おすすめ度:5.0
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マーク・ピーターセンは、最初に冠詞が決まり次に名詞を選ぶのだという。発想が全く日本人とは逆である。

多賀さんは、筆者も高校生の時に使ったなつかしい「山貞」(山崎貞)の参考書、「新々英文解釈研究」(初版はなんと1915年)を今でも使える英文法の解説書として、"what"の関係形容詞的用法などを紹介している。

新々英文解釈研究復刻版新々英文解釈研究復刻版
著者:山崎 貞
販売元:研究社
発売日:2008-12-11
おすすめ度:5.0
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"what money I have"は"all the money I have"の意味だ。

●"can"と"be able to"の違い、"will"と"be going to"の違い

この本では"can"と"be able to"の違い、"will"と"be going to"の違いなどが、多賀さんの経験を通じて説明されているので、わかりやすい。

"can"と"be able to"は、多賀さんがケンブリッジに留学していた時、判例が見つかったときに、教授に"I could find the case"と言ったら、理解されなかった例を紹介している。

"could"は、「いつでも望めばできた」という意味で、「ある時あることができた」と言うなら、"be able to"か"manage to"を使うのだと。

"will"と"be going to"の違いは次の通りだ。

・I will take you to the observatory floor."(展望階につれて行ってあげましょうー意志決定)

・I am going to take you to the observatory floor."(これから展望階につれて行ってあげますー元々の計画をこれから実行)


●同じように見えて意味が違うケース

この本には同じように見えて、様々な意味の違いがあるケースを紹介している。答えは続きを読むに記載した。

・「古池やかわず飛び込む水の音」は"A frog has jumped into the water."か、"A frog jumped into the water"か?

・"I have painted the chair"と"I painted the chair"の違い

・"My grandfather has done a lot for me"と"My grand father did a lot for me"の違い


●チャーチルの名言

バトルオブブリテンの時のチャーチルの英国議会での有名な発言が倒置法の例として紹介されている。

"Never in the field of human conflict was so much owed by so many to so few."
(人類の戦争において、こんなにも多くの人々が、こんな少ない人達によって、これほどまでに助けられたことはなかった=訳は筆者バージョン)

横道にそれるが、筆者はオーディオブックで、チャーチルのノーベル賞受賞作"The Second World War"第2次世界大戦を聞いている。

Audibleでダウンロードしたものだが、元々6巻をチャーチル自身が4巻にまとめたものを、声優が全文朗読している。

1巻が10時間から14時間で、4巻全部で50時間程度の大変なボリュームだが、第2次世界大戦のあちこちの戦場での出来事が詳しく語られている。

the second world war





バトルオブブリテンは第12章、オーディオブックで30分ほどが割り当てられている。

撃墜機数も戦果発表当時とは違い、実は半分程度だったとか、レーダーもまだよちよち歩きの段階だったという風に、第2次世界大戦の帰趨を決めた重要な戦いながら、控えめな表現なのが印象的だ。

ずいぶん前から聞いているが、やっと1944年10月のレイテ沖海戦まで来たところだ。

元外交官の関榮次さんの「チャーチルが愛した日本」を読んだことでもあり、時間を掛けて興味深く聞いている。

チャーチルが愛した日本 (PHP新書)チャーチルが愛した日本 (PHP新書)
著者:関 榮次
販売元:PHP研究所
発売日:2008-03-15
おすすめ度:3.5
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ちなみにアメリカを訪問した時に、チャーチルは自分のことを"Half American"と言っており、アメリカ人である母のジェニーの影響を強く受けていることをみずから語っている。


ややセンスが古いところもあるのでアマゾンのレーティングは低いが、軽妙な語り口で1時間程度で読める。

「うな重方式」という奇抜なネーミングに難があるような気がするが(混ぜて食べて味わうならカレーライスでも天丼でも何でも良いはず)、かなり英語が出来る人でも参考になる点が多いので、一度手に持ってページをめくってみることをおすすめする。


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2009年09月09日

心にとどく英語 日本人の英語 第3弾 今度は言葉のニュアンス

心にとどく英語 (岩波新書)心にとどく英語 (岩波新書)
著者:マーク ピーターセン
販売元:岩波書店
発売日:1999-03
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


「日本人の英語」の著者マーク・ピーターセンさんの英語の使い方指南第3弾。今度は言葉のニュアンスだ。

最初に目次を紹介しておく。

I.英語の発想
 1.マラソンが彼にチャレンジする
 2.時制はドラマをつくる
 3.willではないがmightではある

II.日常もドラマだ
 1.頼れるレトリック
 2.宿題は「haveの世界」
 3.getをモノにして
 4.「微妙なこころ」を添える

III.会話にスパイスを
 1.excuseで世渡り上手
 2.youはyouでも「あなた」じゃない
 3.「入場券でも売ったっていうのか」

IV.意思貫徹の会話術
 1.隠された「つもり」
 2.女を侮辱する表現あれこれ
 3.去る者は日々に疎し
 4.careは人間関係の要

190ページあまりの本で、簡単に読める。いくつか参考になった点を紹介しておこう。


チャレンジ=挑戦という意味の確率は1/4

最初にチャレンジが出てくる。

チャレンジというと難しいことに挑戦するというイメージだが、そういった使い方は1/4程度で、大半は挑発とか呼びかけという意味だ。

象徴的な例として、「マラソンが彼にチャレンジする。」という例を挙げている。

The marathon challenged the runners.

アメリカンフットボールでもルールが変わってチャレンジを1試合に3回までできるようになったが、これは審判の判定に不服があるときに言い出すものだ。

この例としては、

U.S. may seek to challenge East German Medals.

という例が紹介されている。

東独は今は統一ドイツの一部だが、旧共産圏のスポーツ選手はドーピングをやっていたとの疑惑があり、さかのぼって1968年から1988年の間の東独のメダルを無効にする審判を米国が要求したというものだ。


ネイティブ並の会話は至難の業だがネイティブ並のレターなら努力すれば書ける

以下は筆者の意見だ。筆者はTOEIC945点だが、最も自信を持っているのは英文のレターだ。

TOEIC何百点とかいっても、本当の英語力はTOEICでは計れない。文脈にあった適切な単語を使って格調高いレターを書けるかどうかが本当の英語力だ。

日本人が英語会話でネイティブと間違えられるまでになるのは至難の業で、米国駐在9年の筆者でも不可能だろう。しかしネイティブ並のレターは努力すれば書ける。

このブログでも紹介してきた「日本人の英語」などの英語本を読んでも、断片的な知識はつくが、本当の意味でネイティブ並のレターが書けるようになるには、英語本を読むだけでは不十分だ。英語の原書を読んだり、英語のオーディオブックを聞くことでも不十分だろう。

ネイティブ並のレターを書こうと思ったら、筆者がおすすめするのはタイム誌を読むことだ。それも単に1年とか読むのではない。5−10年くらいの単位で読み続けるのだ。

英文週刊ニュース誌 TIME アジア版 定期購読1年分 (英語版)英文週刊ニュース誌 TIME アジア版 定期購読1年分 (英語版)
販売元:Time Inc.
発売日:2006-03-01
クチコミを見る


さらに単に読む続けるだけではダメだ。何年読み続けても1ページにいくつも知らない単語が出てくると思うが、辛抱強く分からない単語は辞書を引くことだ。

辞書を引くといかにタイム誌の英語が文脈にぴったりの洗練された単語を使っているかわかるだろう。

偉そうなことを言っているが、実は筆者がネイティブ並のレターを書けるようになったのは、「タイムインテンシブコース」という通信教育のおかげだ。

毎週タイム誌を読み、2週間に1回レポートを書くということを6年続けた。その後米国に駐在した時に通信教育はやめたが、タイム誌を読むことはずっと続け、結局20年以上継続してタイムを読んでいた。

この「タイムインテンシブコース」はアルクの通信教育だが、現在は同じコースはない様だ。

メールが中心となり、英文でレターを書くことが少なくなってきているので、「タイムインテンシブコース」も止めたのかもしれないが、やはりきちんとしたビジネス提案をして受け入れられるためには、今でもレターが最も効果的だ。

同じコースがないので、代替案は次の通りだ。

1)タイム誌を読んで、分からない単語が出てきたら印をつけ、後で辞書を引く。

2)英文添削が含まれている通信教育を受ける。

3)タイム誌で新しく覚えた単語を使って英文を書いたり、会話に使ったりしてみる。

4)(可能であれば)英語でタイム誌の記事のあらすじを書く。

継続は力なりである。一般の通信教育の問題点は何年も継続して続けるようなコース設計となっていないことだが、上記の4つを続ければ英文力が比較的に向上することは間違いない。


「分からない」のニュアンス

文脈にぴったりの英語という意味では、この本では良い例が多く載っている。たとえば次のような「分からない」が紹介されている。

I don't know where she went last night.

日本語の「知らない」に近い。

I don't understand why she's been so cold to me lately.

「考えても分からない」という意味。

I never realized that she was getting tired of me and had started seeing someone else.

「気が付かなかった」という意味。

I couldn't tell that she was getting tired of me and

「まったく気が付かなかった」という意味。


映画の名セリフ

★映画卒業の一場面で、ミセスロビンソンが、娘の学友のベンを誘惑する場面でのセリフだ。

What do you drink? Bourbon?

これが現在形であるところが意味がある。「いつも何を飲んでるの?バーボン?」という風に、大人の雰囲気を作ろうとしているのだ。



YouTubeでは、このセリフの後の場面が載っている。


★カサブランカのセリフ

カサブランカのDVDを借りてきて一晩で2回見てしまった。本当に良い映画だ。

カサブランカ [DVD] FRT-017カサブランカ [DVD] FRT-017
出演:ハンフリーボガード/クロード・レインズ/ポール・ヘンリード/イングリッド・バーグマン/ハンフリー・ボガード
販売元:ファーストトレーディング
発売日:2006-12-14
おすすめ度:4.5
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カサブランカの最も有名なセリフ(筆者が思うに)は次の通りだ。

Ybonne: Were you last night ?

きのうの夜はどこにいたの?

Rick: That's so long ago, I don't remember.

そんな昔のことは思い出せない。

Ybonne: Will I see you tonight ?

今晩会えるかしら

Rick: I never make plans that far ahead.

そんな先のことはわからない。

YouTubeにはこの映像はないが、カサブランカの名セリフを紹介しているサイトで紹介されているので、参照して欲しい。


この本「心にとどく英語」で紹介されているのは、カサブランカの次の場面だ。短いセリフに絶妙のメッセージが詰め込まれている素晴らしい例だ。

ブルガリア人の若妻アンニナがリックにルノー署長の約束は信頼して良いのか聞く。(ルノー署長が自分と寝たら出国許可を出すと言ったのだ)

Will he keep his words?

He always has.

ルノー署長は今まで約束を守っている。(つまり同じような取引を違う女と何度もやって約束通り出国許可を発給しているという意味だ。現在完了を使って絶妙の意味を出している)

これを聞いたアンニナはため息をつく。


これ以外のカサブランカの名セリフが取り上げられているブログもあるので紹介しておく。作者の松本亨さんがつくった英語字幕付きのビデオがYouTubeにもアップされている。一見の価値があると思う。



このほかに映画で英語(カサブランカ)というサイトもある。カサブランカの英語好きの人も多い様だ。


英語をブラッシュアップするヒント

この本ではちょっとした心配りで、英語がブラッシュアップできるヒントが紹介されている。印象に残った例を紹介しておく。

★willとam going toの違い。willは思いつきの感じがあるが、am going toは予定に入っているという感じがある。


★goとgetのニュアンス

Do you think you can go to the party tonight?

パーティにそもそも行けるかどうか。

Do you think you can get to the party tonight?

パーティ会場にたどり着けるかどうか

だから駅に行く道を聞くにも、How can I go to the station?はおかしく、How can I get to the station?と言うべきだ。


★Youをあたかもoneの様に使う例

大リーグの名選手のインタビューという設定で。

It's important to remember that everything you do and say is being watched by a lot of different people. You have to think about what you're doing, and especially how children are looking at you.


★kiss-and-tell bookというのはいわゆる暴露本のこと。

★「知らねえよ」の英語は"I wouldn't know"だ。"I don't know"だと単に「分からない」になってしまう。

★「彼がかわいそう」を英訳すると"I felt sorry for him when he got laid off."というような感じになり、英語の主語はIとなる。


この本を読んだだけで英語力が向上するわけではないが、いわゆる「うまい言い方」の大事さを教えてくれるという意味で良い本だと思う。

簡単に読めるので、図書館などで借りて一読をおすすめする。


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2009年09月05日

続 日本人の英語 今度は文法より言葉の用法

続・日本人の英語 (岩波新書)続・日本人の英語 (岩波新書)
著者:マーク ピーターセン
販売元:岩波書店
発売日:1990-09
おすすめ度:4.0
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日本人が気づかない英語の誤った用法を指摘した「日本人の英語」の続編。

日本人の英語 (岩波新書)日本人の英語 (岩波新書)
著者:マーク ピーターセン
販売元:岩波書店
発売日:1988-04
おすすめ度:5.0
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「日本人の英語」が文法中心だったのに対して、「続日本人の英語」は単語の用法中心で、昔の名画や小説などのセリフを例として多く取り上げている。


雨に唄えば

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出演:ジーン・ケリー
販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
発売日:2009-09-09
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取りあげられているのは、"You were meant for me and I was meant for you."、これを映画の字幕スーパーでは「ふたりは結ばれていた ー 小指を赤い糸で」と訳していたという。

これは受動態で、能動態に直すと主語がある。それは「神」になるという。非常にレベルが高い話だ。


南太平洋

ミュージカルの名作の「南太平洋」からは、名曲"Bali Hai"や、ヒロインのネリーがシャワーで歌うところの歌詞が取り上げられている。

"I'm gonna wash that man right out of my hair".



実は「南太平洋」は映画で見たことがないので、DVDを借りて見た。YouTubeのこの映像は画質が良いと思う。

南太平洋 (スペシャル・エディション) [DVD]南太平洋 (スペシャル・エディション) [DVD]
出演:ミッツィー・ゲイナー
販売元:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
発売日:2008-04-18
おすすめ度:3.0
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俳句の魅力

ピーターセンさんは大学院の時に俳句をはじめて日本語で読んで、カルチャーショックを受けたという。その俳句は芭蕉の句と言われる次の作品だという。

落ちざまに水こぼしけり花椿

たしかに露をためた椿の花が、「敦盛の首のように」ついにぽとんとやわらかい土に落ちる場面が目に浮かぶ。

ちなみにこの「敦盛の首のように」はピーターセンさんがこの本で書いている表現だ。


前置詞のニュアンス

次の3つの文の違いを解説している。

I work at the University Library. (働く場所を意識している)

I work in the University Library. (建物の中のにあるという意識)

I work for the University Library. (そこに雇われているという意識)

同じくニュアンスの違いとして、

I made my mother write this letter. (無理矢理書いて貰ったという感じ)

I let my mother write this letter. (書かせてあげることにしたという感じ)
 
I had my mother write this letter. (書いて貰うのは当然だという感じ)

I got my mother to write this letter. (説得して書いて貰ったという感じ)


これが名訳というものだ

最後に川端康成の「山の音」の一場面をコロンビア大学のサイデンステッカー教授が英訳した文を紹介している。

「やさしい」が1ページに7回出てくるが、それを異なった英語で表している。

川端康成自身、「ノーベル賞の半分は、サイデンステッカー教授のものだ」と言い、賞金も半分渡しているそうで、まさに作品の細かな「ひだ」まで忠実に英語に訳した名訳と言えると思う。

非常にハイレベルの英訳がどういうものなのかよくわかるので、一寸長くなるが和文と「やさしい」がある部分の英訳を対比して紹介しておく。

食卓を囲んで主人公の信吾(62歳)、妻の保子、最近女ができた長男の修一、しとやかでやさしい嫁の菊子、「半出戻り」の娘の房子が談笑するという設定だ。

「お父さまは、菊子さんにやさしくていいわねえ」と房子はいったりした。…

"Isn't father nice to Kikuko," said Fusako...

「そうですよ。わたしだって、菊子にはやさしくしているつもりですよ。」と保子が答えた。

"Yes, of course," said Yasuko. "I try to be good to her myself."...

房子は答えを必要とするような言い方でなかったのに、保子が答えた。笑いをふくんだ声でありながら、房子をおさえつけるようだった。

「このひとが、わたしたちに、たいへんやさしくしてくれますからね。」

"After all, she's good to us."....

菊子は素直に赤くなった。

保子も素直に言ったのだろう。しかし、なにか自分の娘にあてつけがましく聞えた。

幸福に見える嫁を好いて、不幸に見える娘をきらうように聞えた。残酷な悪意を含むかと疑われるほどだ。…

「僕は賛成しないぞ。亭主にだけはやさしくない。」と修一が言ったが、じょうだんにもならなかった。

"I don't agree that she's all that kind." said Shuichi. "She's not to her husband" The joke was not successful.

信吾が菊子にやさしくすることは、修一や保子は勿論、菊子もよく知っていて、誰も改めて口に出さないことなのだが、房子に言われてみると、信吾はふとさびしさに落ち込んだ。…

It should have been clear to all of them, to Shuichi and Yasuko as well as Kikuko herself, that Shingo was particularly gentle toward Kikuko....

やさしくすると言っても、信吾の暗い孤独のわずかな明かりだろう。そう自分をあまやかすと、菊子にやさしくすることに、ほのかなあまみがさして来るのだった。

Kindness to her was a beam lighting isolation. It was a way of pampering himself, of bringing a touch of mellowness into his life.

出典:新潮文庫「山の音」

山の音 (新潮文庫)山の音 (新潮文庫)
著者:川端 康成
販売元:新潮社
発売日:1957-04
おすすめ度:4.5
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出典: The sound of the mountain

The Sound of the Mountain (Vintage International)The Sound of the Mountain (Vintage International)
著者:Yasunari Kawabata
販売元:Vintage
発売日:1996-05-28
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前作の「日本人の英語」とはまた違った切り口で参考になる本だった。

20年近く前の本だが、アマゾンのランキングでも「日本人の英語」の483位には及ばないが、2、935位とよく売れていることがわかる。

ハイレベルの英語に興味がある人におすすめする。


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2009年08月22日

日本人の英語 20年間売れ続けているベストセラー

日本人の英語 (岩波新書)日本人の英語 (岩波新書)
著者:マーク ピーターセン
販売元:岩波書店
発売日:1988-04
おすすめ度:5.0
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20年前の出版ながら、いまだにアマゾンのベストセラーランキングで291位(2009年8月21日現在)となっているオバケ ロングセラー。

先日読んだ多賀敏行さんの「外交官のうな重方式英語勉強法」に紹介されていたので読んでみた。

2006年4月の時点で73万部売れたというから、現在はたぶん90万部近く売れているのではないだろうか。

この本の書評はアマゾンに現在59件寄せられて、ハンパではない。しかもほとんどが5という高い評価だ。ネイティブだからこそ書ける、まさに目からウロコの英語書である。筆者が読んでから買った本の一つだ。


著者のマーク・ピーターセンさんは米国ウィスコンシン州出身

著者のマーク・ピーターセンさんは現在は明治大学の教授だが、この本を書いた当時は明治大学の選任講師だった。

Mark Petersen





出典:http://www.i-osmosis.jp/interview/mark_petersen/profile.html

米国ウィスコンシン州出身でフルブライト交換留学生として日本に学び、東工大で「正宗白鳥」(!)を研究したという。

ウィスコンシン州、ミネソタ州などの北中央部の英語は、クセがなくて良いのかもしれない。

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出典は以下注記ない限りWikipedia

筆者は米国駐在時代にウィスコンシン州に、しばしば出張したが、寒冷地ということもあってかなぜか黒人が少なく、ドイツ系やポーランド系、ノルウェー系移民が多い地域で、ウィスコンシン州は自動車用などの鋳物産業が盛んな土地だ。

1980年代には、ブラジルからセントローレンス川を通って五大湖まで2万トン級の船(外航船としては小さい)のパートカーゴで(船全部でなく、いくつかの船倉を使う)木炭銑鉄を輸入し、ミルウォーキー港の埠頭倉庫に在庫して、ウィスコンシン州やイリノイ州の鋳物工場などに販売していた。

筆者の住んでいたピッツバーグからは、シカゴかデトロイトでコミューター飛行機に乗り換えてマディソン空港に行くか、シカゴかミルウォーキーまでジェット機で行って、そこからレンタカーで3時間程度走ってマディソンに行っていた。

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マディソンは小さい町だが、州議会やウィスコンシン大学(マスコットはバジャー=たぬき(アナグマでなくたぬきだと思う))があり、湖があってきれいな町だ。

ちなみに「マディソン郡の橋」のマディソン郡はアイオワ州にあり、ウィスコンシンの州都マディソンではない。

マディソン郡の橋 (文春文庫)マディソン郡の橋 (文春文庫)
著者:ロバート・ジェームズ ウォラー
販売元:文藝春秋
発売日:1997-09
おすすめ度:3.5
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日本人に多いミス

はじめに日本人に多い英文のミスを列挙している。

1.冠詞と数
  a, the, 複数、単数などの意識の問題
  ここに英語の論理の心があり、観念の上では、この二つ(冠詞と数)を別々に考慮することは不可能に近いという。

2.前置詞句
  英語には前置詞(to, at, in, on, about, aroundなど)が多い。微妙な差が付けられているが、その反面トラブルも多い。

3.Tense, 文法の「時制」
  日本語には時制の代わりに、「相(aspect)」があり、tense自体ないので、様々な奇妙な英語が生じる。

4.関係代名詞
  that, whatなど、用法は完全に論理的で、基本的には使いやすい。

5.受動態
  論文に目立つ受動態の使いすぎ。

6.論理関係を表す言葉
  因果関係をあらわす(consequently, becauseなど)から、もっと微妙な関係をあらわす(thereby, accordinglyなど)豊富にあり、英語と日本語の感覚の違いから使い方に問題が出てくる。

いわゆる"time-tested"、長年のベストセラーだけあって参考になる例が多い。印象にのこった例を紹介しておく。


ネイティブは名詞に a をつけるのではなく a に名詞をつける

「ネイティブは名詞に a をつけるのではなく a に名詞をつける」という発想は、たぶんこの本で最も有名な指摘の一つだろう。まさに目からウロコだ。

「a に名詞をつける」と言われても、何のことか、にわかには分からないかもしれないが、日本語で考えるのではなく、いわば”英語アタマ”で考えると、なるほどと納得できると思う。

「つまり、"a"というのは、その有無が一つの論理的プロセスの根幹となるものであって、名詞に付くアクセサリーのようなものではないのである」

まず言いたいこと=アイデアがありきで、そのモノが特定のものなのか、1つ2つと数えられるありきたりのものなのかで、論理的に a か the か、何も付かないかが決まり、次に適切な単語を探すということだ。

これは筆者の意見だが、スペイン語やフランス語、ドイツ語などの名詞に男性形、女性形(ドイツ語は中性も)がある場合を考えると、さらにひとひねり加わると思う。

まず言いたいこと=アイデアがありきで、そのモノが特定のものなのか、1つ2つと数えられるありきたりのものなのかで、スペイン語だと不定冠詞 unか una(女性形)か、定冠詞 elか laか決まる。

次に名詞を選ぶが、スペイン語の場合は una mesa や un escritorio(どちらも机だが、mesaは食卓、escritorioは勉強机の意味)の様に名詞と冠詞とセットになって覚えているので、女性形でも男性形でも名詞に冠詞がくっついて出てくる感じだ。

★a を付けてはいけない例
a を付けない例としてエビスビールのラベルを挙げている。

以前は、"YEBISU, the legendary character, brings you a good luck"と長年書かれていて、ピーターセンさんは英語の教育者として落胆していたそうだが、"87.07.下"の刻印のビールから a がなくなり、"YEBISU, the legendary character, brings you good luck"となったのだと。

エビスビールは自宅で愛飲しているので、缶のラベルを見たが、缶にはこの表記はない。ちなみに瓶にはラッキーエビスという魚が2匹とれたラベルの瓶もあるようだ。「当たり」の様なものだが、特に特典はないという。

yebisu02_02











出典:http://web-box.jp/kohassan/yebisu.htm

★a の間違った用法
a の間違った用法として、次の文を挙げている。

"Last night, I ate a chicken in the backyard". これだと一匹のを捕まえて食べたという意味になる。

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チキンを食べたなら、"Last night, I ate chicken in the backyard."で、a は要らない。

これは間違いの英文としても傑作といってよいものだと。


日本人に多い間違い

★日本人はtheを使いすぎる
ある英文学術雑誌の各論文の冒頭の文、66を抜き出して調べると、余計なtheがあったものが24,Theの足りないのは7,aの足りないのは6,余分なaはゼロ、冠詞がカンペキなものが16あったという。

★Theの例
歴史上最も有名なセンテンスを挙げている。

In the beginning God created the heaven and the earth - Genesis 1:1(創世記1:1)

それぞれ一つしかないものだからtheが使われている。

★純粋不可算名詞も間違いやすい
information, equipment, knowledge, assistance, evidence, advice, help, health, dependenceなどが純粋不可算名詞(複数形がない)の例だ。

冒頭のエビスビールのラベルの英文が良い例だ。"YEBISU, the legendary character, brings you a good luck"と長年書かれていたが、1987年7月に修正されて a が取れたという。

★英語に訳せない日本語
「思いやりがなさすぎる」

たしかに逐語訳はできない。筆者の案では、"He is anythging but considerate"だが、これが正解かどうかわからない。


前置詞の使い方

★日本語で「〜で」という場合、常にbyとは限らない
The cranes were observed by binoculars"

ではなくて、

The cranes were observed with binoculars"だという。

by binocularsだと、「双眼鏡に観察された」という意味になるのだ。

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今や「ワープロ」は死語に近くなっているが、タイプライターは"written on a typewriter"というので、「ワープロ」も "written on(not by) a word processor"となる。

★inとonの論理
inとonは論理が一貫している。中に入るのinで、上に乗るのがonである。だからin timeとon timeも、一定時間の中に入るのがon timeで、ある一瞬とぴったり合うとon timeとなる。

また乗り物は、自分で操縦できる者はget in a carで、ただ運ばれるのはget on a trainとなる。

カツラはtake off, 髢(かもじ=付け毛)はtake outだ。髢(かもじ)なんて言葉知らなかった!これがアメリカ人の書いた日本語かと驚く。

★over/aroundの例
Why don't you come over sometime?

Why don't you come around sometime?

どちらも「いつでもおいでよ」という親しみを表しているが、ニュアンスの差は、come overの方が直接的で、come aroundの方がついでに寄る感じがでている。

この"Why don't you〜?"では苦い思い出がある。新入社員の時に外国のお客をアテンドした時、この言い方を知らずに、"Because〜"と答えてしまったのだ。そのお客を、えらく理屈っぽい奴だなと思っていたが、軽い呼びかけ方とは知らなかった。

★明治な大学
University of Meijiというのは英語ではありえず、Meiji Universityでしかない。

of地名が正式名称となっている国立大学はThe University of Tokyo"(東大)しかない。

YasudaAuditorium





★上野動物園のパンダは英語でどう言う
上野動物園のパンダは、the pandas of Ueno Zooか、Ueno Zoo's pandasか、それともUeno Zoo pandasかという疑問には、最も所有感の強いのはUeno Zoo's pandasだが、Ueno Zoo pandasという名詞並びでも良いという。

Ueno-zooLightmatter_panda






時制と相(aspect)

★点と線
ピーターセンさんは、"What are you always doing on Sunday?"と聞かれて何を聞かれているのかわからず、無気味に感じて、答えられなかったという。「日曜日に何ばかりしているのですか?」という感じだと。

これを聞くなら、"What do you usually do on Sundays?"となるだろう。

★英語は「時」日本語は「相」
典型例は日本語の「行く前に」だ。

英語だと行動の時間によって、"before I go; before I went; before I had gone; before I have gone; before I will have gone"といった時制が考えられるが、日本語では「行った前に」とは言わない。常に「行く前に」だ。

ピーターセンさんにとっては、最近のアメリカ人の時制の使い方が崩れてきて、ときどき恥ずかしい思いをするという。

"We have signed a contract"は現在も契約している状態で、"We signed a contract"は、正確に言うと現在では契約はない状態なのだと。


関係代名詞

★カンマの使い方
たとえば次の文だ。

The Nobel Prize which I received last year was a great honor.

The Nobel Prize, which I received last year, was a great honor.

最初の文だと、昨年受賞したノーベル賞ということで、前にもノーベル賞を受賞したことがある様なニュアンスとなる。2番めの文なら、正しく伝わる。

600px-NobelPrize








日本人に多い受動態

この本は雑誌「科学」の1986年1月から1987年12月までの2年間に"Mark Remarks"という名前の連載をまとめたもので、理系の人向けに元々書かれたものだ。

木下是雄さんという人が書いた「理科系の作文技術」というベストセラーもあり、「科学者の書く日本語は受身(受動態)の文が目につく」という。

客観的であるべき自然科学の論文は、英語でも"I"と言わず"the author"と言い、受身の形で書けと教わってきたからだというが、最近では英語国の学者の中でも受動態を排除する動きもあると木下さんは語っている。

理科系の作文技術 (中公新書 (624))理科系の作文技術 (中公新書 (624))
著者:木下 是雄
販売元:中央公論新社
発売日:1981-01
おすすめ度:4.5
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筆者はどちらかというと理系の審査員資格を持っているが、日本語でもやたら受動態が多いのに気が付く。だから筆者の場合は、報告書はすべて能動態で言い直している。

論文でよくあるのは次のような例だ。

"The following results of this experiment was obtained…”

これを英語らしく書くと、

"We obtained the following results in this experiment"とか"The results of this experiment are as follows"とすべて能動態になる。

主語と述語が離れすぎるのもわかりにくい。またピーターセンさんの最も嫌いなのは"was investigated"だという。

"The possibility of building a new hospital with funds provided by both private donation and governmental assistance under the new law was investigated"という感じだ。

これは、シンプルに

"We investigated the possibility of building a new hospital …"とすればわかりやすい。


どの「従って」を使うか?

accordinglyは、従ってというよりは、それに応じてという感じで、consequentlyはas a resultと同じく、結果として何らかの状態となることだ。

よく使われるthereforeは大げさすぎるという。

As, so, since, becauseについては、soは口語的なので、論文では使わない方が良いという。Asはbecauseともwhenともとれるので、意味が正確に伝わらないおそれがあり、科学論文には使わない方が良いという。

sinceとbecauseが、論文などにちょうど良い堅さなのだと。

ピーターセン氏が推薦するのは、therebyとthus、それに論文にふさわしいhenceだ。


この本を有名にしたmyの用法

★電子レンジは my で、冷凍庫は the?
この本を有名にしたもう一つの指摘は、この電子レンジは my で、冷凍庫は the という説明だ。

電子レンジと冷凍庫を比較すると、冷凍庫は一般家庭に普及しているので in the freezer だが、電子レンジは当時では珍しく、自分のモノという所有意識があるので、in my microwave なのだと。

20年前なら電子レンジも珍しかったが、今や1万円以下の電子レンジさえある時代なので、もはやmy microwaveという人は少なくなっていると思う。

シャープ 電子レンジ RE-T1-W5(ホワイト系/50Hz )
シャープ 電子レンジ RE-T1-W5(ホワイト系/50Hz )


なにはともあれ、所有意識によりmyが付くというのは優れた指摘だと思う。


20年前のベストセラーなので、上記のmy microwaveなどのやや古いと思われる例もあるが、それにしても目からウロコの英語本である。

楽しく読めるので、まだ読んでいない人には是非一読をおすすめする。


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2009年08月20日

政権交代で民主主義度がアップ? 国際ジャーナリストの英語術 

2009年8月20日再掲:

いよいよ衆議院選挙戦が始まった。8月30日の選挙では大方の予想通り、「山が動く」ような気がする。

政権交代が現実味を帯びてきている。

イギリスの雑誌"The Economist"は世界各国の民主主義度(Democracy index)を発表している。

2008年の民主主義度だと、日本は世界で17位で、米国は18位となっている。前回の2006年のデータでは日本は20位、米国は17位だった。

最低は北朝鮮なのは変わりない。

トップはスウェーデン、ノルウェー、アイスランドなど北欧諸国が占めている。

Democracy index




出典: Wikipedia

"The Economist"とは別に、米国国務省も各国の民主主義度を発表しているという。

米国国務省が発表している「民主主義度」で日本がトップグループに入れないのは、政権交代が起こっていないからだという。

このことは元朝日新聞ジャーナリストの村上吉男さんが「国際ジャーナリストの英語術」で書いているので、そのあらすじを再掲する。

今回政権交代が起これば、日本の「民主主義度」も上がり、トップグループに入れるだろう。

8月30日の総選挙が楽しみだ。


2009年4月3日初掲:

国際ジャーナリストの英語術 (朝日新書)国際ジャーナリストの英語術 (朝日新書)
著者:村上 吉男
販売元:朝日新聞出版
発売日:2008-05-13
おすすめ度:3.0
クチコミを見る


先日読んだ「外交官のうな重方式英語勉強法」に紹介されていたので読んでみた。

著者の村上吉男さんは、朝日新聞顧問で、大学卒業後ジョセフ・グルー奨学金で米国フレッチャースクール法律外交大学院に留学し博士号を取得した後に帰国し、1965年に朝日新聞社入社。

バンコク、ワシントンに駐在し、1977年のロッキード事件の時にロッキード社のコーチャン副会長への単独インタビューに成功するなど、数々のスクープを挙げる。

村上さんの英語能力は、前述の「うな重方式」の著者で外交官の多賀敏行さんのお墨付きである。

村上さんは「英語は体育」と言い、積極的に口のまわりの筋肉を動かして発音しないと英語は上達しないと語る。米国駐在経験9年の筆者も目からウロコの指摘である。

筆者も日本人の少ないピッツバーグでアメリカ人相手に仕事をしていたので、自分ではそれなりに英語はうまいつもりだが、息子たちに言わせると「日本人(外国人)の英語」というのがわかるという。

ネイティブ並みの英語の発音をめざすには、やはり「体育」と思って、口をネイティブのまねをして動かすことが必須なのだろう。

この本では、発音のときのくちびるの形まで載せていて、大変わかりやすい。

英語は体育






前半では取材のコツ、ウラを取る、「スピン」=情報操作対策、機動力が勝負など国際ジャーナリストの仕事の進め方を簡単に説明している。マスコミの仕事の裏側の努力や駆け引きがわかって面白い。

後半の部分は「英字新聞は最高の先生」として、記事の構成、見出しの理解、ニュース・ソースなど英字新聞を読みこなすためのコツや、英字新聞読解のための200単語などを紹介している。

この本の目次

この本の目次は次の通りだ。

序章 ある英語学習者の体験

第1章 ジャーナリストと英語

第2章 英語は「体育」−「話聞読書」の学習法

第3章 それでは通じない!−和製英語からの脱却

第4章 英語の品格ーまずは"and, but, so"の卒業から

第5章 英語新聞は最高の先生ー読みこなすためのコツ

付録 英語新聞が読めるようになる200単語


筆者はTOEIC945点だが、この本の最後の200単語のうち1割くらい意味が分からなかったし、発音も間違って憶えていたものが多い。

特に"hose"や"post"の"o"(オー)の発音は、"ou"(オウ)となることは、この本を読んで初めて気が付いた(ホウズ、ポウst)。

上には上が居る。筆者の大学生の長男は(元)帰国子女なのでTOEIC975点だが、たぶん村上さんはTOEICだと990点(満点)なのではないか。TOEIC945点程度で満足している自分が恥ずかしく思えた。

この本では日本人の犯しやすい間違いと、どうやったらネイティブの英語を書けるか、どうやったら英語らしく聞こえるかがわかりやすく説明されていて参考になる。

英語があまりできない初級者から上級者までまんべんなく役に立つ実用書だと思う。

特に参考になるのが第4章の「英語の品格」だ。


「英語の品格」

次がこの章のサブタイトルだが、様々な観点から村上さんの豊富な経験に基づいた至れり尽くせりのアドバイスをしてくれている。英語の上級者にも参考になることがわかると思う。

・ただ「話せる」というだけではいけない

・感銘を与える英語

・くだけた物言いと流暢さは違う

・取り扱い注意の感動詞

・and, so, butからの脱却

・物や事象を主語にする

・品格ある英語

・good, wonderfulを別の語に

・badを別の語に

・単語の言い換えで会話の格を上げる

・英語らしい発音にするための微調整

・語尾の"n"と"m"をしっかり発音する

・子音をはっきりと。母音を勝手に付けない

・"f"、"v"の発音

・"wo"、"o"、"oa"の発音

・"i"(アイ)の発音

・さらに上を目指すなら

・フランス語の活用

・ラテン語の活用


その他、いくつか参考となる例を紹介しておく。


発音できなければ生活できない

そこそこ英語のできる日本人が米国に来て困るのが、自動音声対応装置とドライブスルーだ。

電話の自動音声対応装置は、ちょっとでも発音が悪いと通じないし、ドライブスルーも何回も聞き返されて、後ろに車の長蛇の列ができると焦ってしまってなおさら通じなくなるパターンが多い。

筆者もマクドナルドのドライブスルーでは冷や汗かいた思い出がある。なぜ通じないのかわからないのだ。

筆者がピッツバーグ日本語補習校の運営委員長をやっていた時に、このドライブスルーの件を、学校の卒業記念文集に書いたことがある。そうしたらアメリカ人と結婚した日本人の補習校の先生から「アメリカ人の夫も通じないことがある」となぐさめ(?)られたことがある。

アメリカでも方言があることも通じない原因の一つだ。

南部なまりは有名だが、東部のピッツバーグでもピッツバーグなまりがある。

たとえばピッツバーグでは”ファイリング”は”ファーリング”だし、”サンドイッチ”は”サムウィッチ”だ。

最初に秘書に”ファーリング”と言われた時は何のことか分からなかった。

アメリカ人でもドライブスルーは苦手の人がいるというのは、なまりとか人種による声帯の違いなどの事情もあるのかもしれない。


日本は民主主義度でトップグループではない

カーター政権の頃、米国国務省が「世界の民主主義国家リスト」を発表したことがあり、日本はトップグループでなく、第2グループだった。村上さんは国務省の担当にいきりたって電話を入れたが、理由を聞いて納得したという。

その理由は日本は長年政権交代が起こっていないので、第2グループなのだというものだった。

今年中には政権交代が起こる可能性が高くなってきたので、いまでもこの国務省のリストがあれば、来年は日本は初めてトップグループに入るかもしれない。


"Any government lies"(どんな政府もウソをつく)

2003年春の米国のイラク侵攻の時に、米国政府はメディアも使ってイラクが大量破壊兵器を持っているという情報を流したが、IAEAエルバラダイ事務局長は証拠はつかめていないと言っていた。

それにも関わらずアメリカはイラクに出兵した。

イラクの核開発について最後までアメリカと対立したIAEAのエルバラダイ事務局長とIAEAの組織全体が2005年のノーベル平和賞を受賞したことは、IAEAの立場が正しかったことが国際的に認められたものである。

次の2つは第4章「英語の品格」からだ。


パーティ用語の"byol"

村上さんはパーティの招かれた時に挨拶状に"byol party"と書いてあったのを見過ごして、恥をかいたという。

"byol"とは"bring your own liquor"のことで、飲み物持参パーティのことだ。

"byob"と呼ぶことも多い。"byob"とは"bring your own booze=酒"のことだ。


"and, so, but"からの脱却

次の2つの文を比べて欲しい。

"I went to school yesterday, and I saw a teacher. He said hello to me. But I don't like that teacher, so I didn't say hello to him"

"When I went to school yesterday, I say a teacher I didn't like. He said hello to me, but I didn't return a greeting"

どちらが説得力あるだろうか?

このように"and, so, but"から脱却することで、英文も小学生レベルの英文から、ピリッとしまった英文を書けるようになる。


英語の4大発音

村上さんは次の4つが英語の4大発音で、繰り返し練習が必要だという。("ae"と"з"は発音記号の代わり)

1."man"などの"ae"音

2."shirt","term", "worthy"などの"з:r"または"зr"音

3."learn"などの"L"音

4."think", "thank you"などの"θ"音

筆者はこれにアメリカ英語の特徴である"r"(アール)の発音を加えたらカンペキと思う。


アメリカ駐在のときに、当時幼稚園児と小学生の息子たちに「お父さんの英語は下手だ」と言われていた。

自分ではそれなりに英語がうまいつもりなのだが、当時の息子たちのようなネイティブと同じ発音と自分の発音が異なる理由がわかったような気がする。

「駐在のときにこの本を読んでいれば....。」と思うと残念だ。


英語の初級者にも上級者にもおすすめできる。読むだけでなく英語の発音も試して欲しい本である。


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2009年07月15日

シャープなリンゴとルーズなトマト 英語でストリートスマートになる手引き

シャープなリンゴとルーズなトマト―イギリス英語散歩シャープなリンゴとルーズなトマト―イギリス英語散歩
著者:多賀 敏行
販売元:小学館
発売日:1999-07
おすすめ度:4.0
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本日付でチュニジア大使に発令された多賀敏行さんが、英国生活で気が付いた英語の用法をまとめたエッセー。

大前研一さんの「マネー力」などでは資産を増やし、守るために日本人よ"Street smart"になれ、というようなことを書いているが、この本はいわば"英語版Street smart"のすすめだ。

多賀さんはイギリス公使を勤めた外交官であり、ケンブリッジ大学に留学したほどの英語の使い手だが、それでもわからなかった町中での英語の用法が紹介されていて参考になる。

この本で紹介されている英語の用法は大まかに整理すると、次の4パターンとなる。


1.よく使う英単語だが、イギリスでの用法はあまり知られていないもの

たとえば本のタイトルとなっているシャープな(すっぱい)リンゴ、ルーズな(バラ売りの)トマトだ。「よく旅をする"travel extremely well"菓子パン」など、このパターンは結構多い。

信号機のアンバーも知らなかった。日本語だと青、黄、赤だが、英国だとRed, Green, Amberなのだ。

多賀さんも苦労したそうだが、英国の運転免許試験は30分ほどの市中運転の実技と、停車して10問ほどの口頭試問ということなので、これは難しいと思う。

米国、特にピッツバーグなどの田舎は車が運転できないと死活問題にもなるので、運転免許は高校生から取れるし、問題も易しい。

筆者の最初の駐在の時は、日本の免許は他州の免許扱いだったので、領事館で作ってもらった日本の免許の証明付き翻訳を持って行くと、実技は免除で、画面がスライドになっているテスト機で25問だったかの試験にパスするとその場で仮免許をもらえた。

スライド式のテスト機は、たしか合格点が8割とか決まっており、25問中5問以上間違えるとその場でストップという形式だった。

日本の学校の標識はいかにも子どもが歩いている感じだが、アメリカのSchool Zoneの標識は、大人が歩いているので、唯一これを間違えたが他は問題なかったので、事前勉強もせずに一発で合格したが、そのうち日本で免許を持っていても、実地試験が免除されなくなり、後の駐在員は数ヶ月は国際免許で運転していた人が多かった。

また文盲の人は付添人が認められていたので、スライドの設問を他の人に読んでもらっている人もいたが、本当に文盲なのか、あるいは知人に教えてもらうカンニングの一種なのかよくわからない。

School-Zone








日本と違うので注意が必要なのは"No turn on Red"と"Yield"のサインだ。

"No turn on Red"は米国は車は右側通行なので、このサインがない交差点では赤信号でも左から車が来なければ右折して良い。

noturnonread









ニューヨークなどの大都市や、カリフォルニア州などをのぞいて多くの州ではこのサインを取り入れているが、州によってはそもそも"No turn on Red"を認めていないので、レンタカーカウンターなどでチェックが必要だ。

もう一つの三角形のサインは"Yield"つまり、道をゆずれ、向こうの車の方が優先というサインだ。

yield








2度目の駐在の時は、前回の駐在から5年経っていたが、とっくに失効している前の免許を持っていったら、その場で新しい免許を発行してくれた。アメリカは車社会なので、免許は生活に不可欠なのだということがよくわかった。

日本人の多いニュージャージーとかは(カリフォルニアも?)、日本語で運転免許の試験が受けられるという話だった。

それに比べて英国の運転免許試験は難しい。国によってずいぶん違いを感じる。

たぶん外国人にとって日本の運転免許を取るというのも、非常にハードルが高いことなのではないかと思う。

閑話休題。

巻末に「こんなに違うイギリス英語とアメリカ英語」という付録が付いているので大変参考になる。


2.英国ではよく使われているが、日本で目にすることはあまりない単語

筆者もこの本で初めて知った単語に"alight"がある。乗り物から降りるという意味だ。地下鉄のストリートパフォーマーの"busking"という単語も知らなかった。


3.アクセントや発音が違うので通じにくい単語

マクドナルドがこの手の単語で有名だが、(「まくーな」という感じだ)、この本では、コストレル、ーモグロビン、ウディアム(塩分)などが紹介されている。アクセントが違うと全く通じないことがあるので、要注意だ。

この本の付録でも紹介されているが、ロンドンの中心地のピカデリーも日本語風に発音すると通じないと思う。ピカディリーなのだと。

筆者は米国でレンタカーを電話で予約しようとして、Arkansasアーカンソー)で苦労した覚えがある。アーカンサスではないのだ。


4.なんと読むのかわからない地名

なんと読むのか分からない地名が多いのもイギリスの特徴だ。ウィンストン・チャーチルが生まれたブレナム宮殿はBlenheim Palaceだ。

実はこのBlenheimは元々ドイツの町で、チャーチルの先祖のJohn Churchill、Marlborough(モールボラ)卿が勝利を勝ち取った戦いの場所で、ブレナム宮殿は時のアン女王から初代Marlborough卿に与えられたものだという。

現在「21世紀イギリス文化を知る事典」を読んでいるが、実はチャーチルの祖先の話は、この事典に載っていたので紹介したものだ。

800ページの大作だが、イギリス文化の奥深さがわかる話が多く参考になる事典だ。

21世紀 イギリス文化を知る事典21世紀 イギリス文化を知る事典
著者:出口保夫
販売元:東京書籍
発売日:2009-04-04
クチコミを見る


Marlboroughもタバコなら日本語ではマールボロと言っているが、チャーチルの場合はモールボラだ。魚のボラを皿に盛ると覚えると良いと多賀さんはコメントしている。

読めない地名はいくらでもあるので、この本では付録にまとめられている。

例えばReadingなどはアメリカのペンシルバニア州にもあり(発音も同じ)、筆者は何度も行ったので忘れないが、初めての人ではディングとは読めないだろう。


英語のなまりから出身がわかる

最後に英語のなまりから出身地、出身階級がわかる話が紹介されており、多賀さんは1.有名パブリックスクールからオックスフォード大学・ケンブリッジ大学に行った人、2.パブリックスクール出身ではないが、オックスフォード大学・ケンブリッジ大学を卒業した人、3.どちらでもない人、の3パターンを聞き分けられるという。

サッチャー元首相は、2.で、メージャー元首相は3.だ。

マイ・ファア・レイディのヘップバーンのコックニー(ロンドンの下町のスラング)を直すヒギンズ教授の話も出てくる。YouTubeでも英語矯正のシーンがある。



ヒギンズ教授は6マイル内の誤差で、その人の出身地を当てることができ、ロンドンでは2マイル以内、時には通り2本の精度で言い当てることができると言っている。

多賀さんは、自らの経験からして、この「通り2本」というのもあながち誇張ではないと語っている。

筆者は仕事で昨年ロンドンに行ったが、そのとき個人情報の話になり、英国の郵便番号(アメリカではZip code、英国ではPostal code)の精度の話を聞いた。

日本の郵便番号は7桁にもかかわらず、一つの町で一つの郵便番号というように全く有効利用されていないが、英国の郵便番号は建物、ビルディング?ごとについているので、その人の郵便番号がわかれば社会的階級までわかるという話をしていた。

さすが階級社会イギリスだと思う。


詳しく紹介すると本を読んだ時に興ざめなので、あらすじはこの程度にしておくが、12チャンネルのワールド・ビジネス・サテライトの小谷真生子(こたにまおこ)さんが推薦していると本の帯に写真入りで紹介されている。

簡単に読めて役に立つ。是非一読をおすすめする。


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2009年06月24日

「エコノミック・アニマル」は褒め言葉だった 役に立つ英語のショートストーリー集

「エコノミック・アニマル」は褒め言葉だった―誤解と誤訳の近現代史 (新潮新書)「エコノミック・アニマル」は褒め言葉だった―誤解と誤訳の近現代史 (新潮新書)
著者:多賀 敏行
販売元:新潮社
発売日:2004-09
おすすめ度:4.5
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ケンブリッジ大学で法学の修士学位を持つ外交官で、東京都儀典長の多賀敏行さんの英語の本。

先日お目にかかる機会があったので、サインも頂いた。

多賀さんサイン






タイトルも含めて、次のような文を集めている。

第1章 「日本人は12歳」の真意

第2章 「エコノミック・アニマル」、「ウサギ小屋」は悪口か

第3章 アーネスト・サトウと山下将軍の無念

第4章 暗号電報誤読の悲劇 ー 日米開戦前夜

第5章 漱石の鬱屈、魯迅の感動

第6章 ダイアナ妃とブッシュ・シニアの文法

第7章 存在しない「グローバル・スタンダード」という言葉

第8章 ブッシュ・ジュニアの国連演説

第9章 騒動の中心はたったひとつの言葉

付録として1951年5月5日のマッカーサーの上院答弁の原文、1941年11月4日の日本の東郷外相から野村駐米大使宛ての電報(暗号が誤読された電報原文)、1979年のEC報告書(英語版)を紹介している。

「文藝春秋」などで公開された作品もあり、文学小品として大変興味深いものばかりだ。


マッカーサーの「日本人は12歳」発言

たとえばマッカーサーの「日本人は12歳」発言。筆者もマッカーサーが日本人のことを見くびった発言だとばかり思っていたが、この本の解説と原文を読むと、決して日本人をバカにした発言ではないことがわかる。

日本人をバカにした発言と思いこんでいる著名人の例が挙げられており、そのような評価につながった朝日新聞の報道や「天声人語」も紹介されている。

意に添わない受け止められ方をしてマッカーサーも残念だったことだろう。多賀さんも「あまりにも気の毒な感じがしてならない」と語っている。

マッカーサーの発言は、マッカーサーがトルーマン大統領に解任されて、帰国直後の1951年5月5日の上院の軍事・外交合同委員会の時のものだ。

ちなみにこの1ヶ月ほど前に、マッカーサーは上下両院議員を前に「老兵は死なず。ただ消え去るのみ」(Old soldiers never die; they just fade away.)という有名な言葉で締めくくった演説をしている。

日本の民主化の成功を得々と説明するマッカーサーが、つい「一旦自由を享受した国民が(平時に)自発的にその自由を手放したという事例は一つたりとも私は知りません。」と言い切ったのに対して、ロング議員が意地の悪い切り返しをした。

ロング委員はワイマールドイツの例を出し、一旦は民主化したのにファシズムに転換した例もあるではないかと鋭く突っ込んだので、とっさにマッカーサーが答えたのがこの発言だ。

ドイツやアングロサクソンは文化的にも45歳の成熟期といえ、ナチズムも国際道義を知っていながら侵略やホロコーストなどを確信犯的に犯したものだ。

これに対し日本は長い歴史がある民族ではあるが、社会の発達の度合いからも12歳の少年のように(they would be like a boy of 12)ナイーブで民主主義教育が可能だと言いたかったものだ。

多賀さんの総括の言葉を引用すると:

「日本人はドイツ人と異なり封建体制下でしか生きたことがなく、世界のことも十分知らず暮らしてきた。欧米の社会の発展の度合いでみると子供のようなものである。しかし子供であるからこそ、教育が可能だ。壮年期に確信犯として悪事を働いたドイツとは違う」ということを強調したかったのだろう。」

この本で紹介されている原文を読んでも、多賀さんの理解が正しいと思う。

ネガティブ発言として歴史に埋もれてしまったマッカーサー発言を、原典にまで遡って調査して、誤解を解消する多賀さんの地道な言論活動に敬意を表する次第である。

マッカーサーと、その良きカウンターパートの吉田茂も感謝していることだろう。


その他の話の要旨

詳しく紹介すると本を読んだときに興ざめとなるので、筆者の備忘録も兼ねて要旨だけ紹介しておく。


★「エコノミック・アニマル」、「ウサギ小屋」は悪口か
日本を「エコノミック・アニマル」と読んだのはパキスタンのブット元首相だが、多賀さんの外交官の先輩によるとブット氏は「自分は決して日本人を侮辱するつもりでエコノミック・アニマルと言ったのではないのに」と語っていたという。

ブット氏はUCバークレーとオックスフォード大学を卒業し、同大学で教鞭をとったこともあり、完璧なイギリス英語を話したが、この「○○アニマル」という云い方は、決して侮辱的ではないことが様々な根拠から論証されている。

★1979年のECの報告書に「日本人はウサギ小屋のような住居に住んでいる」と書かれたことを、フランス語の原文までたどって、決して侮辱的な意味ではなかったことをきっちり説明している。

フランス語では共同住宅のことを"cage a lapins"、と呼んでいるが、これは文字通り訳すと「ウサギ小屋」となるのだ。

★アーネスト・サトウと山下奉文(ともゆき)将軍の無念
アーネスト・サトウは幕末の日本を書いた「一外交官の見た明治維新」の著者として有名だ。アーネスト・サトウの話は、幕府との交渉の時に"The treaties"なのか"treaties"なのかで、あいまいに幕府側が説明したことにミスリードされたという話だ。定冠詞の有無で意味が全然異なる例である。

一外交官の見た明治維新〈上〉 (岩波文庫)一外交官の見た明治維新〈上〉 (岩波文庫)
著者:アーネスト サトウ
販売元:岩波書店
発売日:1960-01
おすすめ度:5.0
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山下奉文中将はシンガポール陥落の時の日本軍指揮官で、英軍パーシバル中将が降伏交渉でくどくどと条件交渉をはかったので、"Yes"か"No"かで答えを迫ったという話で有名だが、実はこれは通訳が悪かったのでしびれをきらしたのだという。

終戦の時、フィリピン方面軍総司令官の山下奉文大将の降伏調印式には捕虜収容所から出所したばかりのパーシバル中将がいたという。マッカーサーの報復である。

山下奉文―昭和の悲劇 (文春文庫)山下奉文―昭和の悲劇 (文春文庫)
著者:福田 和也
販売元:文藝春秋
発売日:2008-04-10
おすすめ度:4.0
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★暗号電報誤読の悲劇
太平洋戦争前からアメリカは日本の暗号を解読していて、ルーズベルト大統領は”マジック”と呼んでそれを読んでいたが、実は重要な部分に誤訳があってそれが日米交渉を終了に追い込んだ理由の一つになったという。

今度紹介する「真珠湾の真実」でも解読された日本の暗号文が数多く紹介されているが、この本では英文と和文が対照されているので、興味深くわかりやすい。

真珠湾の真実 ― ルーズベルト欺瞞の日々真珠湾の真実 ― ルーズベルト欺瞞の日々
著者:ロバート・B・スティネット
販売元:文藝春秋
発売日:2001-06-26
おすすめ度:3.0
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開戦当時、外務次官だった西春彦氏は「回想の日本外交」に、日米交渉の際に日本側が甲・乙両案を出したのに、アメリカ側は重大な譲歩を含む甲案に興味を示さなかったので不審に思ったことを書いている。

西氏が戦後、東京裁判の時に不思議に思って米国の暗号解読資料を読んでみると1941年11月4日の東郷外相から野村駐米大使宛の電報が、米国側に誤訳され、日本側は誠意がないと受け止められる内容となっていて、はじめて甲案に米国が反応を示さなかった原因がわかったという。

この傍受電報の誤訳が日米交渉が決裂した大きな原因の一つになったと思うと、西さんは、その晩は眠れなかったという。

回想の日本外交 (1965年) (岩波新書)回想の日本外交 (1965年) (岩波新書)
著者:西 春彦
販売元:岩波書店
発売日:1965
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★漱石の鬱屈(うっくつ)、魯迅の感動
ロンドン留学時代の夏目漱石が官費留学にもかかわらず金欠病で、海外生活不適応症候群となっていたのに対して、日本留学中の魯迅は「藤野先生」にも書かれている通り、大変熱心に指導を受け、文法の誤りも含めノートはすべて朱筆してもらったという。

阿Q正伝・藤野先生 (講談社文芸文庫)阿Q正伝・藤野先生 (講談社文芸文庫)
著者:魯迅
販売元:講談社
発売日:1998-05
おすすめ度:5.0
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多賀さんもケンブリッジ留学時代に教授から"I am slightly disappointed at your rather slow progress."という具合に「英国人的指導」を受け、それから論文を念入りに朱筆してもらって、有り難かったことや、英国での下宿生活の経験を書いている。

筆者もアルゼンチンで2年間、研修生として賄い付きの下宿で生活していたが、他に3人アルゼンチン人の同宿人がいた。

いまだに彼らとは文通しているが、土日(平日は朝・夕、土日は夕食はなかった)は彼らと一緒に食事したり、外出したりして楽しく過ごし、スペイン語漬けの生活を送ったので、帰国して社内スペイン語検定で1級が取れた。

同宿人はスペイン系アルゼンチン人とイタリア系アルゼンチン人だったが、一緒に町を歩くと、出会った若い女性には必ず声を掛けるので、閉口する部分もあったが、今から思えば楽しい思い出である。

多賀さんも書いているが、やはり良い下宿、良い環境で生活するというのは、語学を上達させる上で絶対に必要だと思う。


★ダイアナ妃とブッシュ・シニアの文法
湾岸戦争の時に、ブッシュ・シニアが「サダム・フセインがイラクからいなくなったらよかっただろうとは思う。これは超過去完了時制ですよ。」と言ったという。

原文では、"'Out of there' would be have been nice. This is ex-pluperfect past tense."と言ったという。「超過去完了」などなく、実際には仮定法過去だが、インテリらしく見せないブッシュ・シニア一流の切り返しだという。

ダイアナ妃は自分のことを"She won't go quietly"とインタビューで語り、強い女の一面をのぞかせた。


★存在しない「グローバル・スタンダード」という言葉 
よく「アメリカン・スタンダードはグローバル・スタンダードではない」という風に使われるが、これは和製英語のようだ。


★ブッシュ・ジュニアの国連演説
"We will work with the U.N. Security Council for the necessary resolutions"と最後が複数形になっているのは、フランスに配慮してのことだという。英語は奥が深い。


★騒動の中心はたったひとつの言葉
カナダのクレティエン首相の報道官がブッシュ大統領のことを"moron"と呼んで辞任。"moron"とはうすのろのことだ。その他"recalcitrant"とか難しい単語をめぐってのエピソードが紹介されている。


多賀さんの知性と教養があふれる英語のショートストーリー集である。楽しく読めてためになる。

簡単に読め、大変面白い本なので、是非手にとって見て欲しい。


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2009年05月31日

超英語法 野口悠紀雄さんの英語勉強法

2009年5月31日追記:

下記のあらすじを書くために読んだのは2004年4月発刊の単行本だったので、iPodの活用について全くふれていなかった。iPod前の時代なので、やむをえないところだろう。

文庫本は2006年10月発刊なので、あるいはiPod、特にPodcastを活用しての英語勉強法について書いてあるかもしれないと思って、文庫本も読んでみた。

内容は変わりなく、気づいた唯一の変化は文庫版のあとがきだった。

iPodの活用については、「このような技術進歩の成果を最大限に活用することが重要だ」と書いてあるだけだが、そのほかに野口さんがスタンフォード大学客員教授として赴任して感じたことを書いているので、紹介しておく。

スタンフォードで痛感したのは、日本人学生の英語力の低さだと。

スタンフォードの留学生数を見ても、1990年代のはじめ頃は日本、中国、韓国それぞれ120名程度で、ほぼ同数だったが、現在は中国が400名、韓国も300名強に対して、日本は逆に減っており60名程度になっているという。

企業派遣の留学生が減ったこともあるが、スタンフォードで教えていて感じた一番の原因は日本人留学生の英語力の低下と考えざるをえないと野口さんは語る。

ITにより世界の経済構造は大きく変わり、アメリカで企業に電話すると、ほとんどの場合インドのコールセンターにつながるが、日本はこのようなITを使った変化から取り残されている。

インターネット上の世界言語は英語であり、日本人の英語力の低さにより、日本が大きな変化から取り残されているのだと。

単行本で述べていなかった「読む英語」の重要性にもふれている。

今や情報収集の主役はインターネットの検索であり、世界中のあらゆる情報を調べようとしたら、それは英語の文献が中心になる。今後の世界は日本語と英語の差がさらに広がり、「差が本質的なものになる」だろう。

野口さんがスタンフォードにいたときに、Googleのトラックが毎日大学図書館に横付けになり、本を搬送していたという。

本をロボットが撮影して電子化するのだ。それが現在ベータ版で提供されているGoogle book search(Googleブック検索)だ。

たとえばGoogleブック検索で「英語 夏目漱石」で検索してみるとヒットするのは122件だ。

Google book search





次に"English Soseki Natsume"で検索すると、ヒットするのは526件だ。

goo





もちろんコンテンツの数よりコンテンツの中身の方が重要だが、それにしても漱石の引用や作品ですらインターネット上の情報では英語の方が日本語より圧倒的に多いのがわかる。

このグーグルブック検索は本だけの検索で、著作権の関係から載っている本でも一部しか公開されていないし、検索にかからない本がまだ圧倒的に多いが、それでも何かのテーマについて書く時には大変便利なツールだ。

話が横道にそれたが、いずれにせよ英語を読めるかどうかで、その人の情報能力には本質的な差が生じることになる。英語の勉強は今後ますます重要性を高めているのであると野口さんは文庫版のあとがきで記している。

目的のPodcastの活用法については、別の本を読んだ方がよさそうなので、調べてまたあらすじで紹介する。

尚、野口さんの「超英語法」のサイトがあり、現役英語教授との対談とか、超英語法講演会レポートなどのコンテンツが載っていて参考になるので、紹介しておく。

noguchi ondemand college







2009年5月27日初掲:

「超」英語法 (講談社文庫)「超」英語法 (講談社文庫)
著者:野口 悠紀雄
販売元:講談社
発売日:2006-10-14
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


以前紹介した「英語ベストセラー本の研究」で2000年代、第三次英語ブームの時代の代表作として紹介されていたので読んでみた。

読んでみてあらためて「英語ベストセラー本の研究」が内容を的確にまとめていることがわかった。さすが元編集者が書いた英語の本である。

孫引きのようになるが、筆者の「英語ベストセラー本の研究」のあらすじのなかで、「超英語法」関連部分を引用すると次の通りだ。

+++++++++++++++++++++++++++++++

勉強法で数々のベストセラーを出している野口悠紀夫さんの英語法は、英語は単語帳で暗記せずに、文脈で覚える、そのためには有名な文章を暗記するのが一番というものだ。

ちなみに野口さんはジョージ・オーウェルのアニマルファームやケネディの就任演説全文を暗記したという。

Animal Farm (Signet Classics)Animal Farm (Signet Classics)
著者:George Orwell
販売元:Signet Classics
発売日:1996-04-01
おすすめ度:4.5
クチコミを見る




(注:ケネディの大統領就任演説で最も有名な"Ask not, what your country can do for you. Ask what you can do for your country. Ask not, what America will do for you but what together, we can do for the freedom of man"は、最後の12分20秒くらいにある。)

口語に関する限り、聞く練習がすべてで、話す練習は全く必要がないと野口さんは語る。「聞くことができれば、自動的に話すことができる」と。

語学のマスターには4,000時間が必要だ。中学から大学まで約3,000時間英語を勉強してきたので、あと1,000時間を社会人になっても継続することを野口さんはアドバイスする。

++++++++++++++++++++++++++++++++

簡単ではあるがほぼこの本の要点は抑えていることがわかる。


英語は聞くことができれば話すことができる

野口さんの英語勉強法の最大の論点は、「英語は聞くことができれば、ほぼ自動的に話すことができる」という点だ。

それが冒頭の部分で語られているので、その部分を引用する。

「多くの人は、実用英語とは英語を「話すこと」だと考えている。英語の能力があることを示すのに「英語を流暢に話せる」と表現することが、その証拠だ。

しかし、これは大きな間違いだ。実際の場面で必要なのは、「聞くこと」なのである。そして、聞くことができれば、ほぼ自動的に話すことができる(詳しくは、第一章の2を参照)。

だから、実用英語の訓練は、実際に話されている英語を聞くことに集中すべきだ。

英会話学校もテレビの英会話番組も、あるいは「こうした場合にこう話す」という類の参考書も、「実用英語は話すこと」としている点で、基本的に誤っている。」


聞ければ自動的に話せる例として、友人と野口さんが話している例を、"Coffee Break"というコラムで紹介している。

会話は「相手に助けられながら話す」のだと。相手が言っていることをそのまま繰り返すだけで会話が成立することもあるし、Yes, Noを挟んだり、簡単な返しの言葉"Yes, indeed"とか"Oh, really?"、"That's right"などを使っても良い。

相手に依存して、相手を真似するだけで自動的に話すことができる。

実際の会話はこのように相手のペースで進むことが多い。相手が言っていることを正しく理解できさえすれば、こちらが複雑な表現法をできなくとも、問題なく進行するのだと。

だから「聞く訓練に集中すべし」という観点からすると、多くの英会話学校でやっている授業や、ラジオ、テレビの番組の英語の勉強法は、間違っていると野口さんは語る。

聞く訓練においては、教師の役割は少ないため、英会話学校としては売り物にならない。「話せるように訓練します」というのは「供給者の論理」で、それにはまりこまないことが重要だと。

「英語は聞ければ話せる」というのは英語教育業界に真っ向から反発する内容なので、論議を呼ぶ意見だが、筆者自身の経験からしても正しい順番だと思う。

赤ん坊は親の話す言葉を聞いて言葉を覚えるわけだし、筆者自身、"R"と"L"の発音の違いがわかったのは、アルゼンチンの下宿でアルゼンチン人の友人とワインの話をしている時だった(白ワインをスペイン語ではvino blancoと言い、"L"の発音だ)。

友達の発音をまねてvino blanco(ビノ・ブランコ)と言えた訳だ。

ちなみにスペイン語では"L"と"R"の区別はあるが、"V"と"B"の区別はないのがややこしいところだ。だからヴィノ・ブランコではなく、ビノ・ブランコなのだ。


英語細胞説

英語を聞いたり読んだりするときは、脳の英語細胞を使うという「英語細胞説」があるそうだが、野口さんの英語勉強経験からも、この「英語細胞説」は納得できる点が多いという。

「英語細胞」という言い方が正しいのかどうかわからないが、米国駐在九年の筆者の経験からしても、「英語で考える」ことができる段階まで上達すれば、たしかに「英語細胞」は「日本語細胞」と別にあるという説も理解できる。

駐在が長くなると、英語の単語は出てくるが、日本語の単語が思い出せないということがある。筆者はアルゼンチンに駐在してスペイン語ができるので、スペイン語でも同様のことがあった。

これも「英語細胞」、あるいは「言語細胞」の例なのだろう。


ひとまとめで丸暗記する

野口さんのもう一つの主張は、「単語帳でばらばらに単語を覚えても使えない。丸暗記でひとまとまりのものとして覚える必要がある」ということだ。

このブログで紹介した多賀敏行さんの「外交官の『うな重方式』英語勉強法」でも「うな重方式」として紹介しているように、多くの英語勉強法の著者が、様々な表現で語っている通りだ。

外交官の「うな重方式」英語勉強法 (文春新書)外交官の「うな重方式」英語勉強法 (文春新書)
著者:多賀 敏行
販売元:文藝春秋
発売日:2008-11
おすすめ度:3.0
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ちなみにコラムで、経済学の授業で”マルチンゲール”という言葉が出てきて意味が分からずに困ったという話を紹介している。筆者もこの言葉は知らなかったが、負ければ賭け金を倍にしていく賭けのことだ。


英語を聞く練習

この本を読んで、野口さんの勉強法は、かなり筆者の勉強法と似ていることがわかった。

第5章「聞く練習を実践する」では、次のサブタイトルで説明している。

1.通勤学習のすすめ

2.インターネットで演説を聞く

3.インターネットでニュースを聞く

4.オーディオブックで文学作品やビジネス書を聞く

5.映画は実用英語の勉強教材として適切か

通勤時間を利用して、英語を聞く点は筆者と同じだが、筆者の場合、「歩きながら本を読む」をモットーに、歩いている間にも英語を聞いている。

筆者が読んだ単行本は2004年4月の発刊で、まだiPodが広まる前の時代なので、iPodのAudible.comのオーディブックとの相性の良さPodcastでアメリカの有名大学などの講義が視聴できる便利さなどは語られていない。

Audible.comサイト:

audible






Podcastのスタンフォード大学のページ

Podcast Standford University






ちなみに筆者がiPod第3世代のiPodを買ったのは、2003年の冬頃だ。iTunesのWindows版が出たのが、2003年10月ということなので、たぶんその直後だと思う。

この本も、今改訂版が出れば、iPodを活用した英語勉強法に見直されることだろう。


野口さんは英語をどう勉強してきたか

最後の第7章「私は英語をどう勉強してきたか」のサブタイトルは次の通りだ。

1.中学生のときに見つけた丸暗記法
2.アメリカ留学
3.帰国後に英語を勉強

帰国後に英語を勉強とは、上記の通勤学習のことだ。

野口さんの英語勉強の目的は、「アメリカ人が普段の生活で使っている口語も聞けるようになること」で、象徴的に言えば「映画の英語がすべて分かること」だという。

これが野口さんに不足している能力で、それに加え、正式な英語を書くのは難しいと今でも思っていると語る。野口さんは留学中に大学の博士論文を書くときに、冠詞の使い方が悪いと指摘されたという。本当に冠詞は難しい。


日暮れて道遠し

この本で何度も引用されている故伊丹十三監督の「ヨーロッパ退屈日記」に、ヴァイオリンの奏者に三段階あり、1.全く奏することができない者、2.非常につたなく奏する者、3.非常に巧みに奏する者だという話が出てくる。

ヨーロッパ退屈日記 (新潮文庫)ヨーロッパ退屈日記 (新潮文庫)
著者:伊丹 十三
販売元:新潮社
発売日:2005-03
おすすめ度:4.5
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野口さんはこの第2段階だと謙遜する。この道50年で「日暮れて道遠し」だと。

64歳になってからも新しい外国語に挑戦したシュリーマンの例を取り上げ、映画の英語がすべて聞けるように今後も英語を楽しく勉強したいと締めくくっている。

古代への情熱―シュリーマン自伝 (岩波文庫)古代への情熱―シュリーマン自伝 (岩波文庫)
著者:ハインリヒ シュリーマン
販売元:岩波書店
発売日:1976-01
おすすめ度:4.0
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まさに同感である。英語の勉強に終わりはない。筆者も通勤時間に英語のオーディオブックを聞き、車に乗るときはaudible.comでダウンロード購入してiPodに入れたチャーチルの「第二次世界大戦」を聞いている。

Audible.comのチャーチルの第二次世界大戦のページ

the second world war







Second World War (Second World War)Second World War (Second World War)
著者:Winston, Sir Churchill
販売元:Mariner Books
発売日:1986-05-09
おすすめ度:5.0
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ノーベル文学書受賞作でもあり、チャーチルの英文が格調高いこともあって、まだまだわからないことが多い。

筆者の場合も、まさに、この道40年で「日暮れて道遠し」だ。


英語勉強の原点

野口さんは、英語で悔しい思いをした経験はないようで、中学の英語弁論大会で、(受賞はしなかったが)スピーチをした時が原点だという。

筆者の場合は、24歳でアルゼンチンに赴任したときに乗ったパンナム機で、米国人スチュワーデスに何度言っても"milk"が通じず、結局ビールを持ってこられた時の悔しさが、英語勉強の原点だ。

それからも何度も悔しい思いや失敗をした。

これからもあの悔しい思いを忘れずに、少しでも英語力向上に努力するつもりだ。


「聞くことができれば話せる」とは異論があるかもしれないが、まずはカンペキに聞いて分かることが英語の最大の上達法であることは間違いないと思う。

いろいろな意味で参考になる本だった。是非iPod時代にあわせて改訂版を出してもらいたいものだ。


参考になれば投票ボタンをクリックして頂きたい。


  
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2009年05月08日

英語ベストセラー本の研究 日本人の英語本好きがよくわかる

英語ベストセラー本の研究 (幻冬舎新書)英語ベストセラー本の研究 (幻冬舎新書)
著者:晴山陽一
販売元:幻冬舎
発売日:2008-05-29
おすすめ度:4.5
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戦後60年間の10年ごとの英語教育ベストセラー本の特徴をまとめた本。

この本を読むと、いかに日本人が英語学習本が好きなのかがよくわかる。本だけ読んで実践が長続きしないダイエット本の様なことになっていなければ良いのだが…。

筆者の晴山陽一さんは、元々英語教材や経済雑誌の編集者を手がけ、学習ソフトと教本の販売のために独立し、自らもいくつかの英語教育本・教材を出している。

晴山さんのまとめる戦後60年の10年ごとの英語教育ベストセラー本は次の通りだ。

1940年代 第一次英語ブーム 「日米会話手帳」、「ジャック・アンド・ベティー」

1950年代 受験英語隆盛の時代 「和文英訳の修業」、「英文法解説」

1960年代 第二次英語ブーム 「英語に強くなる本」、「英語で考える本」

1970年代 逡巡の時代 「英語の話しかた」、「なんで英語やるの?」

1980年代 混迷の時代 「日本人の英語」、「起きてから寝るまで」

1990年代 英語本ブームの時代 「英語できますか?」、「これを英語で言えますか?」

2000年代 第三次英語ブームの時代 「ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本」、「”超”英語法」


これを見るだけで、時代の空気がよみがえってくるような気がすると晴山さんは語る。

この本の目次のサブタイトルでは23冊の英語学習本が取り上げられており、言及、引用された本を含めると50冊程度が紹介されている。


1940年代 第一次英語ブーム 「日米会話手帳」、「ジャック・アンド・ベティー」

太平洋戦争中は敵性語として一切禁止された英語だが、敗戦でアメリカ人GIが大挙して日本にやってくるとして、32ページの「日米会話手帳」が敗戦後一ヶ月の1945年9月15日に書店に並び、またたく間に360万部を売り上げた。

英語の会話をカタカナで表した簡単なものだが、その実用性には驚く。例えば:

Good evening! グ・ディーヴニン

I can't understand English アイ カーン タンダスタン イングリッシュ

当時のNHKのラジオ英会話のテキストもスゴイという。

Come on, Kitty. Come here. カ モァン キリー カメーァ

Can't you open it? ケーン チュー オウプネット

Wait a minute. ウェイラ メネット

「ジャック・アンド・ベティ」とは開隆社の中学英語教科書だ。筆者は使ったことはないが、中学校の代表的な教科書だ。

永遠のジャック&ベティ (講談社文庫)永遠のジャック&ベティ (講談社文庫)
著者:清水 義範
販売元:講談社
発売日:1991-09
おすすめ度:4.5
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1947年の指導要領の第一番目に「英語で考える習慣をつけること」を英語教育の目的としているのは瑞々(みずみず)しいと晴山さんは語る。「ジャック・アンド・ベティ」でも一切日本語が書かれていない、「直接教授法」に基づいた教科書なのだ。60年後の今こそ導入すべき指導要領なのではないかと思う。


1950年代 受験英語隆盛の時代 「和文英訳の修業」、「英文法解説」

筆者が大学受験勉強をしたのは、1970年代前半だが、使っていた参考書はここに紹介されているものばかりだ。

和文英訳の修業 4訂新版和文英訳の修業 4訂新版
著者:佐々木 高政
販売元:文建書房
発売日:1981-01
おすすめ度:4.5
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新自修英文典 (復刻版)新自修英文典 (復刻版)
著者:山崎 貞
販売元:研究社
発売日:2008-12-11
おすすめ度:5.0
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英文法解説英文法解説
著者:江川 泰一郎
販売元:金子書房
発売日:1991-06
おすすめ度:4.5
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筆者にはなつかしい参考書ばかりだが、この辺の本はいまでも読み継がれているという。


1960年代 第二次英語ブーム 「英語に強くなる本」、「英語で考える本」

1964年の東京オリンピックから1970年の大阪万博まで、時代を反映しての英会話ブームのベストセラーだ。

筆者は当時は小学生から中学生だったが、オリンピックで外人観光客がたくさん来るので、(筆者の家はヨット競技が行われた江ノ島の近くだったし、観光客の多い鎌倉も近い)英会話を習おうという機運が盛り上がっていたことを思い出す。

英語に強くなる本 改訂新版―教室では学べない秘法の公開 (カッパ・ブックス)
著者:岩田 一男
販売元:光文社
発売日:1961-08
おすすめ度:5.0
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試験にでる英単語―耳から覚える試験にでる英単語―耳から覚える
著者:森 一郎
販売元:青春出版社
発売日:2003-01
おすすめ度:4.5
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筆者も受験勉強の時は、「試験にでる英単語」にはお世話になった。いまだに売られており、最新版はCD付きである。最終刷数は1、856刷、公称部数1,488万部だという。

単語を試験に出た頻度順に並べるというのも画期的だし、当時は気が付かなかったが、単語の意味も試験で使われる意味の順番となっている。

たとえば"species"は通常「種、種類」という意味と憶えるが、試験では"the (又はour) species"と出題されることが多い。その場合は「人類」となるので、この本では”species 名詞 人類、種”となっている。今になってそのスゴさがわかった。

英語で考える本英語で考える本
著者:松本 亨
販売元:英友社
発売日:1968-02
おすすめ度:5.0
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筆者はこの本は記憶がない。

松本亨さんはNHKのラジオ英会話講座を20年以上担当した英語教育の第一人者だ。明治学院に進学し、アメリカ人教師が奥さんと立ち話しているのを聞いて、全く分からないことにショックを受け、中学のリーダーを丸暗記し、次に英語本の速読(初めは一日三ページ、最後は一日100ページで100冊読んだ)で猛烈に努力したという。

松本さんは英語には2つの文型しかなく、それはA=Bか、A→B(AがBを〜する)だという。

松本さんはさらに英語がいかに思考の順序に忠実な言語かを説明しており、次のようにも言っている。

「日本人は何を考え、何をいっているのか分からないという苦情をいう外国人が多い。われわれでさえ分かっていないのである」


1970年代 逡巡の時代 「英語の話しかた」、「なんで英語やるの?」

筆者はこの時代の本はほとんど読んでいない。既に大学に入学していたので、いまさら日本語で書かれた英語教育の本を読む気がしなかったこともあると思う。

英語の話しかた―同時通訳者の提言 (1970年)
著者:国弘 正雄
販売元:サイマル出版会
発売日:1970
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NHKのテレビ英会話の講師だった國弘正雄さんの本がこの時代を代表する英語教育本だという。

國弘さんは「只管朗読」(しかんろうどく)という造語をつくって、ひたすら朗読(音読)することをすすめた。國弘さんは中学生のとき、教科書を1,000回程度読んだという。

1970年発刊の本を約30年後に改訂したのが次の本だ。

國弘流英語の話しかた國弘流英語の話しかた
著者:國弘 正雄
販売元:たちばな出版
発売日:1999-12-25
おすすめ度:4.5
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1980年代 混迷の時代 「日本人の英語」、「起きてから寝るまで」シリーズ

筆者は既に大学を卒業していたので、1980年代の英語教育の本も読んだことがなかったが、以前紹介した多賀敏行さんの「外交官の『うな重方式』英語勉強法」で紹介されていたので、はじめて「日本人の英語」を読んだ。

外交官の「うな重方式」英語勉強法 (文春新書)外交官の「うな重方式」英語勉強法 (文春新書)
著者:多賀 敏行
販売元:文藝春秋
発売日:2008-11
おすすめ度:3.0
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日本人の英語 (岩波新書)日本人の英語 (岩波新書)
著者:マーク ピーターセン
販売元:岩波書店
発売日:1988-04
おすすめ度:5.0
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近々「日本人の英語」のあらすじを紹介するが、晴山さんは次のように表現している。

「ひとことで言うと、『英語で考える』というのはどういうことなのかを、日本語で岩波新書が掛けるほど日本語に堪能なアメリカ人の著者が、わかりやすく系統だてて説明した書物であり、これが面白くないわけがない(売れないわけがない)。そういう本である。」

「『日本人の英語』は怜悧な観察をユーモアの衣でくるんだ、英語本としては珍しい第一級の読み物であった」

有名な「名詞の前に"a"を付けるのではない、もしも『付ける』という言葉を使うなら"a"に名詞をつけるのだ、とまさに『目からウロコ』の説明をする」と晴山さんも評している。


1990年代 英語本ブームの時代 「英語できますか?」「これを英語で言えますか?」

英語バブルは止まらないというサブタイトルが付いているが、倒産したNOVAがテレビコマーシャルで知名度を上げ、全国展開したのが1990年以降だ。



TOEIC受験者も1990年には33万人だったのが、1999年には87万人に増加し、2006年には152万人になっている。

「これを英語で言えますか?」は立ち読みしたことがある。なんとかの2乗とかの言い方を知らなかったので、参考になった記憶がある。

これを英語で言えますか? デラックスこれを英語で言えますか? デラックス
著者:講談社インターナショナル
販売元:講談社インターナショナル
発売日:2008-12-10
おすすめ度:4.0
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ちなみにAの二乗+Bの三乗=Cの四乗は、"A squared plus B cubed equals c to the fourth power"と言う。


日本人のTOEFL平均点国際比較

日本人の英語力を国際比較する資料として、しばしば言われるのがTOEFLの平均点だ。個人特訓教室というサイトに紹介されているので、引用しておく。

TOEFLデータ:個人特訓教室_ページ_1












日本人の平均点が国際的に低いことについては、マーク・ピーターセンは、日本人の受験者数が多いので、平均点は低くなることを指摘している。たしかにそういう傾向はあるかもしれないが、それにしても世界でドベに近いというのは憂慮すべきことと思う。

ちなみに晴山さんはも受験者数が日本と同程度の韓国のTOEFL平均点は209点に対し、日本は188点だったので、少なくとも韓国に差をつけられていることは間違いないと語る。


2000年代 第三次英語ブームの時代 「ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本」「”超”英語法」

一億総グローバル時代のビッグ・ヒットというサブタイトルで30冊ほどの本を紹介しているが、筆者は一冊も読んだことがない。晴山さんは、まだ評価が定まっていないからと、次の3冊の内容だけ簡単に紹介している。

英会話・ぜったい・音読 【入門編】?英語の基礎回路を作る本英会話・ぜったい・音読 【入門編】?英語の基礎回路を作る本
著者:国弘 正雄
販売元:講談社インターナショナル
発売日:2001-04
おすすめ度:4.5
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この本の序文にある「英語習得の王道は『音読』」という言葉が、國弘さんの長年英語教育にかけてきた結論だ。

ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本
著者:向山 淳子
販売元:幻冬舎
発売日:2001-11
おすすめ度:4.0
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読んだことのない筆者などは、「?」と思えるタイトルの本だが、さすが幻冬舎である。ネーミングがひと味違う。内容は、松本亨さんの英語はA=BかA→Bしかないという単純化発想の本だと。

晴山さんやマーク・ピーターセンさんが言う「語順は英語の命」(必ず小部分から大部分へ)という点を、この本の著者は簡単にかたづけているので、マーク・ピーターセンさんは「カリカリした」そうだ。

「超」英語法 (講談社文庫)「超」英語法 (講談社文庫)
著者:野口 悠紀雄
販売元:講談社
発売日:2006-10-14
おすすめ度:4.5
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勉強法で数々のベストセラーを出している野口悠紀夫さんの英語法は、英語は単語帳で暗記せずに、文脈で覚える、そのためには有名な文章を暗記するのが一番というものだ。

ちなみに野口さんはジョージ・オーウェルのアニマルファームやケネディの就任演説全文を暗記したという。

Animal Farm (Signet Classics)Animal Farm (Signet Classics)
著者:George Orwell
販売元:Signet Classics
発売日:1996-04-01
おすすめ度:4.5
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Ask Not: The Inauguration of John F. Kennedy and the Speech that Changed AmericaAsk Not: The Inauguration of John F. Kennedy and the Speech that Changed America
著者:Thurston Clarke
販売元:Audio Renaissance
発売日:2004-10-08
クチコミを見る


口語に関する限り、聞く練習がすべてで、話す練習は全く必要がないと野口さんは語る。「聞くことができれば、自動的に話すことができる」と。

語学のマスターには4,000時間が必要だ。中学から大学まで約3,000時間英語を勉強してきたので、あと1,000時間を社会人になっても継続することを野口さんはアドバイスする。


究極の学習法の条件

最後に晴山さんは、これら数十冊の本を総括して究極の英語学習法の骨子を説明している。

(1)学習の抵抗感をなくす ー 英語に抵抗感を持っていたら、学習は続かない。

(2)音読と暗誦を繰り返す ー 体を使わない英語学習は身につかない。

(3)リスニングを他の三技能に先んじる ー 音の伴わない英語は、使いものにな
らない

(4)継続が不可欠 ー 一朝一夕に英語力がつくというのは幻想にすぎない

(5)まず盤石の基礎を築くことが肝要 ー 基礎を手抜きすると、どんなに勉強をしても砂上の楼閣になりかねない

筆者がこれに付け加えるとすれば、「なにくそ」精神、きれいな言葉で言えば、向上心だ。どの著者も英語で失敗した経験があり、それを糧に英語勉強によりいっそう力を注ぎ、英語力を向上させている。筆者も全く同じだ。

1978年、最初の海外赴任で乗ったパンナム機で、米人スチュワーデスに「ミルク」が通じずに、ビールを持ってこられた屈辱が筆者の英語上達の原点だ。

多くの本が英語教育について毎年出版されているということは、日本人には常に英語学習向上心があるということだと思う。それが一番大事なことだ。

ただし、英語教育本がコンスタントに売れるということは、ダイエットと同じように、ちょっと読んでその気になっても、長続きしないで、また違った英語教育本に飛びつく人がたくさんいるのだと思う。

是非この本を参考にして、紹介されている本の中から自分にあったような本を読んでほしい。

本によって言っていること、やり方は多少の違いはあるが、英語勉強法に「ベスト」はない。ただ「ベター」があるのみで、その意味ではどの本でも良いので、まずは実行してみることが大切だ。

最後に筆者の好きなBrian Tracyの言葉を紹介しておこう。

"Great American philosopher Michael Jordan said "Just do it!"


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Posted by yaori at 13:01Comments(0)TrackBack(1)